・・・そういえば。
こんなエピソードを思い出す。
あれはまだ、ご近所ママ友さん達と仲が良かった頃。
三津屋さんと桃亜ちゃんがおもちゃを買いに行ったときの話。
私はこの話を聞かされたとき、ちょっと引いた。
でも、これってヒントだったのかもしれない。
三津屋さんがどういう人か知るための。
あの頃は仲が良かったから、おかしいなと思っても深く考えなかった。
むしろ悪く思わないようにしてた。
よくよく考えてみれば、真の人柄を垣間見るヒントはいくつでも転がっていたのだと思う。
自分の価値を確かめたい人
三津屋さんと桃亜ちゃんはおもちゃ屋さんへ行った。
あれは確か、クリスマスの前だったか。
斗輝くんはお姑さんに預けて、2人で行ったそうだ。
クリスマス商戦真っただ中の店内は、右に左におもちゃの山。
クリスマスの飾りつけが気分を更に盛り上げる。
予算内で、桃亜ちゃんが欲しがったものを買う予定だったそうだ。
「わぁぁぁ~~!!」
きらきらと目を輝かせる桃亜ちゃん。
それを微笑みながら見つめる三津屋さん。
女の子向けのおもちゃ売り場の前で、桃亜ちゃんが立ち止まる。
直接触れるおもちゃの見本があったのだ。
夢中になって触れてみる桃亜ちゃん。
遊び方がわかったら、更に面白くなったようで熱中し始めた。
・・・とまあ、ここまではありがちな話。
だったんだけど。
泣くまで隠れている
なんと三津屋さんは、桃亜ちゃんが熱中しているのを見て、そっとその場を離れたそうな。
桃亜ちゃんが見えない所に隠れて、離れて様子を伺う。
しばらくすると、桃亜ちゃんは我に返り、ママがいないことに気が付いた。
探し回る桃亜ちゃん。
見つからないように場所を移動しながら隠れ続ける三津屋さん。
とうとう桃亜ちゃんは、「ママー!」と泣き出してしまった。
「もうね、私を呼びながら泣く桃亜が可愛くって。ママーって探す顔がみたくて、ついやっちゃうの!」
三津屋さんは満面の笑みで嬉しそうに言う。
「や~ん、桃亜ちゃんカワイイッ!ママ大好きなんだね~!」
堀内さんはそう受け止めたようだが・・・。
私は内心(え??そんなことするの?)だった。
自分が満たされることを優先
クリスマスプレゼントを買いにいって、楽しく過ごしてて、んで桃亜ちゃんをわざと泣かせて可愛い??
う~ん?ちょっとその気持ちがわからないな・・・。
私だったら。
ひらりとおもちゃを買いに行ったとして。
ひらりをたくさん楽しませて、ひらりをいっぱい笑顔にしたい。
素敵なクリスマスの思い出にしたい。
それで「今日はたのしかったね~!」って手をつないで、プレゼント持ってルンルン帰るよ。
しかも、クリスマス前のおもちゃ屋さんなんて混んでて、離れて見てるとはいっても危ないよね。
周りからみたら、幼児が1人でいるって思うよ。
普通はそばにいて、子どもを一人にしないのでは?
この話を聞いたとき、私は(そんなことする?)で終わらせてしまったけど、本当はもっと考えれば良かったのだと思う。
三津屋さんは、桃亜ちゃんを楽しませるよりも自分の欲求を優先した。
ママーって泣きながら探して欲しい。
桃亜には私が必要。
桃亜は私を求めている。
それを強く感じたい、この目で見たい。
そんな仄暗い欲望を抱いている、三津屋さんの心の歪みが垣間見える。
私が三津屋さんに桃亜ちゃんの暴力について意見したら、いじめが始まった。
(なんで気が付かなかったんだろう。ある意味納得じゃない。)
娘を泣かせてまで自分の価値を確かめたい人だったのに。
娘を泣かせてまで自分の欲を満たしたい幼稚な人だったのに。
私が意見したら。
そりゃあ気分を害して、無視・悪口・仲間外れくらいの事、やるだろう。
てことは。
私が泣いて三津屋さんに「許してください、あなたが必要です」とすがれば、ご機嫌をなおしていじめを辞めるかも?
そういう可能性はあるかもしれない。
でもそんなの御免だな。
危険な人だと分かってて、すり寄るなんてできない。
やっぱり関わらないのが一番だ。
突破口が見えた日
夏の暑さもひと段落した頃。
私はある事で迷っていた。
ひらりはあと数カ月で3歳になる。
4月になったら、幼稚園か保育園に通わせようと思っている。
この地域では共働き世帯が多いので、圧倒的に保育園が人気だ。
我が家も新車を購入したりして家計が心配なので、私も仕事を始めたいと思っている。
そうなると、やっぱり保育園かな?
でもお隣の三津屋さんも保育園に行かせたいって言ってたな。
仕事も探してて、良さそうなのがあったら面接に行くって言ってたし。
保育園の審査も厳しくて、希望の所にいけるか分からない。
しかもそこでまた、三津屋家と一緒になってしまったら・・・。
こ、これは由々しき事態であるぞ!
幼稚園って思ってたより良い
その日は旧ママ友さん達と遭遇しない時間帯に、住宅街をひらりとお散歩していた。
すると子育て支援センターで知り合いになった、増山さんにばったり会った。
どうやら今、前を通りかかったこのお宅が増山家らしい。
「峰岸さん、こんにちは!」
「増山さん、こんにちは。こちらにお住まいだったんですね。」
増山さんは風華ちゃんを連れて、おつかいの帰りだった。
これは丁度良いかもと思い、聞いてみる。
「風華ちゃんもそろそろ3歳ですよね?保育園とか、どこかいきますか?」
するとこんな情報が。
「うちはお兄ちゃんが通っていた幼稚園にするの。幼稚園は保育料が高いって思われがちだけど、補助金もでるからそんなでもないのよ。それにね、野木桜幼稚園のバス通なら、家の前まで送迎してくれるの。」
「そ、そうだったんですか??全然知りませんでした!それなら幼稚園も良いですね。」
「一度見学に行くといいよ。電話すればOKだと思うから。」
なんと、とんでもなく良い情報をGETしちゃった!
たまに見かける黄色いバス、もしかしてあれの事かな。
家の前まで来てくれるなんて嬉しいかも!
幼稚園を見学したい
早速調べて、野木桜幼稚園に連絡してみた。
ひらりに合いそう幼稚園なら決めてしまいたい。
幼稚園から、どの時間帯に見学したいかを聞かれた。
子ども達がいる時間帯なら、廊下を通る形で見学。
子ども達がいない時間帯なら、教室のなかに入ってもOKとのこと。
教室以外の施設も合わせて見学できるそうだ。
幼稚園の雰囲気が知りたかったので、子ども達がいる時間帯を選ばせてもらった。
11月には入園試験があるので、早めに見学した方が良いとのこと。
すでに入学願書も配布中だそうだ。
これは急がねば!
数日後に見学をお願いした。
それにしても驚いたのは、幼稚園に入園試験があること。
私も幼稚園に行ってたけど、試験なんてした記憶がない。
やばい、ひらり、試験大丈夫か(笑)
ついでにバス通の件も聞いてみると、この住宅地は道幅が広いので家の前に送迎バスが停まれるとのこと。
子育て世帯が多いので、他の園と差をつける意味もあるのかな。
増山さんに良い幼稚園を教えてもらえて良かった!
増山家(兄)も通ってたそうだし、安心できるんじゃないかな。
気に入ったので決めちゃう
野木桜幼稚園を見学する日がやってきた。
ひらりはまだ伸びきっていない短い髪を、なんとか後ろでひとつに結んで、ちょっとお姉さんぽい髪型にした。
結ぶのに慣れていないので頭が気になっていたようだが、似合うと褒めたらご機嫌になった。
幼稚園についたらチャイムを押し、入り口を開けてもらう。
ちゃんとセキュリティ面を考慮して、勝手に出入りできないようになっていた。
担当の先生がでてきて案内をしてくれる。
玄関ロビーは広くて清潔。
奥には給食室があって、園児の昼食が作られていた。
「暖かいお昼ご飯がでますよ。」
先生がそう教えてくれた。
毎日お弁当を作るのって大変だなと思ってた。
幼稚園で暖かい給食がでるなんて、それってすっごくいいね!
ますます幼稚園いいねポイントがアップした。
授業中の園児たちの様子も見た。
制服姿がかわいくて、ステキ。
年少、年中、年長、それぞれ全然やってる事が違うけど、みんな真面目にそして楽しそうに取り組んでいた。
園庭も遊具が充実していたし、思っていたより広かった。
建物内にも広いホールがあり、雨の日はそこで遊べるし、お遊戯会にも使うと言っていた。
他にも、英語の授業があったり、パソコンを使う授業があったり、年に数回は生け花教室もあるそうだ。
近頃の幼稚園ってすごいな・・・。
ひらりは見学中、目をきらきらさせていたし、何事にも興味深々だった。
そして見学中に「ひらりここにくるの?」と聞き始め、帰るころには「ここいいなぁ」と言い出したので、入学願書をもらって帰ることになった。
保育料とか、バス通代とか、制服の事とか、細かい事をまだきいてないし、他の幼稚園もみてないけど、もう入園する気でいる(笑)
まぁ、ひらりが気に入ったなら、いいか!
そうそう、忘れちゃいけない。
「すみません、入園試験ってどんな感じですか?難しいでしょうか?」
ここに入りたいって言っても、試験落ちちゃったら入れない。
「そんなに難しくないですよ。自分の名前を言えるかとか、簡単な受け答えができるかとか、そいったものです。」
な、なるほど・・・。
それならなんとかなる、かな?
関わらないことで開く道もある
保育園にしようと思ってた頃は、もしかしたら三津屋さんと一緒になるかもという思いから、迷ってばかりでどこにも進めずにいた。
だけど、幼稚園という手があった。
幼稚園を知らなすぎて、今まで選択肢に入ってこなかったのだ。
幼稚園はそんなに高くない、環境も整っている、通わせやすい。
私はパソコン関係の仕事を在宅でやる予定だったので、お弁当を作る必要がなくて、家の前まで送迎してくれる、という条件がすごく自分に適していると思った。
教えてくれた増山さんに感謝だ!
それに、幼稚園という新しい環境を知ったことが、私を上向きにしてくれた。
三津屋さんと関係のない人間関係がそこにあると思うと、清々しい気持ちになった。
ひらりにもお友達がたくさんできるといいな。
増山家の風華ちゃんも行くっていってたし、仲良くなれるといいね。
これで、閉塞した旧ご近所ママ友関係と縁が切れそうだ。
そう思うとすごくほっとする自分がいた。