私達、年中で役員をやった2家族は。
年長さん最初の親睦会に呼ばれなかった。
母達だけの親睦会で、そこに呼ばれなかったならまだよかった。
だけど。
今回の親睦会は親子で参加だった。
子ども達は教室で、お互いに「プレイランド」での話をしている。
うちのひらりと斎藤さんの息子の歩順くんは、話に混ざれなくてポツンとしていた。
ポツンとしながら、戸惑って周りをみていた。
その光景が親としてつらかった。
どうしてこんなことを?
どうしてここまでやるの?
同じ年頃の子どもを持つ親同士なのに。
それなのに平気でいじめをやりはじめ、まだ園児の子ども達を巻き添えにしていく。
目頭が熱くなる。
鼻の奥がツンとする。
心が張り裂けそうだった。
超えてはいけない一線
この日の授業参観はきつかった。
ママさん達から透明人間扱いなのは、まだなんとかなる。
自分をしっかり持って、心をしゃんとさせておけばいい。
自分の心の傷なら、自分でなんとかできる。
だけど。
まだ小さい子供まで一緒にして外したのは、本当にひどいと思う。
教室でポツンとしている、ひらりと歩順くん。
気まずそうにしてるし、悲しそうに顔を伏せる時もあった。
これはもともと大人のもめごとでしょう?
それなのに子ども達も巻き込んで、心まで傷つけるの?
自分が傷つくよりも、わが子が傷つく方がずっと痛かった。
山辺さん達は知っているのだ。
本人を狙って傷つけるよりも。
子どもを狙った方がよりダメージを与えられると。
人としてなんて無意味
大人なら。
母なら。
同じ年頃の子を持つ親なら。
ママ友いじめの延長で子どもも巻き込んでやろうと思うだろうか。
そういえば、と思い出す。
三津屋さんもひらりを無視したっけ。
三津屋さんもひらりを足蹴にしたっけ。
山辺さんといい、三津屋さんといい。
大人になってまでいじめをする人って。
ターゲットを傷つけるためなら何もためらわないんだな。
人としてとか、大人として、とか無意味。
これだけはやっちゃだめでしょ、という一線。
大人になってママ友をいじめをする人には、越えてはいけない一線なんてないんだと知った。
効率よくダメージを与えられるのなら、まだ小さい子ども達でも平気で使うんだ。
あきれる。
悲しい。
悔しい。
人間ってみにくい。
そしてそんな危険な思考の人に、みんなは群がる。
悪口を言わない人より、悪口を言う人のほうに集まる。
悪口を言う人の方を信用する。
こんな人間関係のなかにいると。
なにが正しくて何が間違いかさえ分からなくなる。
もしかして、私も悪口を言った方がいいの?
私も子供を巻き込んでやり返したら良かったの?
いや違う、そんなことないはずだ。
私を見ている人もいる。
心配してくれる人もいる。
陰ながら味方してくれる人もいる。
いつか真実は明らかになる。
それを信じて今は耐えるしかない。
一緒に行きたかったと言われた日
授業参観の時は、母達が集まったせいもあって「プレイランド」の話になってた。
だからひらりと歩順くんはポツンとしてしまったけど。
子ども達の興味は次々に変わるし、授業参観のあとはいつも通りに戻ったんじゃないかな。
まだみんな5歳だし、プレイランドのことは忘れてお友達に混ざれたんじゃないかな。
ひらりがもうすぐ幼稚園から帰ってくる。
にこにこしてバスを降りてくるだろうか。
にこにこしてバスを降りてきて欲しい。
私はズキズキと不安な胸を抱えながら、ひらりが乗って帰ってくるバスを待った。
どうして行けなかったの?
ひらりがバスにのって元気に帰ってきた。
お友達に手をふって、にこにこしながら降りてきた。
私はほっと胸を撫でおろす。
帰ってきてしばらくしても、ひらりはいつも通りだったから。
プレイランドの話は一時的なことで、忘れてしまったんだろうと判断した。
だけど。
夕飯の支度をしている時。
ひらりがぽつりと聞いてきた。
「ママ。どうしてひらりは一緒にプレイランド行けなかったの?」
そうか。
やっぱり気になってたんだね。
「・・・・。ごめんね、ママ、いつプレイランドにいくか知らなかったんだ。」
「ふ~ん。私も一緒に行きたかったなぁ。」
ぎゅぎゅーーーっと、握りつぶされるように胸が痛む。
「そうだよね。じゃあさ、今度ママとパパと3人で行こうか?どうかな?」
「うん、いいよ!ひらり、プレイランド行きたい!」
ごめんね、ひらり。
幼稚園のお友達とではないけど。
家族でプレイランドにいく、それでひらりは納得してくれた。
それにしても。
本当に、ひどい事を平気でする。
子どもを巻き込むなんて。
子ども心を傷つけるなんて。
役員でありながら。
いや、役員の立場を利用して。
ママ友いじめを加速させる山辺さんに、何とも言えない苦い気持ちを感じていた。
次の親睦会に向けて
親睦会そのものを、幼稚園は推奨している。
今回の事態を幼稚園はどうみているのだろうか。
山辺さんの親睦会は幼稚園を介さずに進められた。
なので詳細までは知らないと思うけど、親子でプレイランドに行ったのは耳に入っているだろう。
それにまた少しすれば、役員さんたちは次の親睦会へ向けて企画をたてるだろう。
次は私達も呼んでくれる?
そんな期待はできない。
仲間に入れろとごり押しする気はないけど、また子どもを巻き添えにされないよう対策を考えなきゃ。
まずは幼稚園に相談してみよう。
私と斎藤さんは親子で親睦会から外されたこと。
こういう場合どう対応するべきなのかを、聞いてみたい。
先生に相談したけど
今回の件を幼稚園の先生に相談してみよう。
私と斎藤さんはそう相談して、幼稚園に連絡をいれた。
学年主任の先生が対応してくれて、先生の都合の良い時間に幼稚園に行くことになった。
先生とお会いする日。
緊張しながら園に赴いた。
年中の時の飲み会がそもそもの始まり、ということ。
それから雰囲気がおかしくなり、年長の親睦会に呼ばれなかったこと。
山辺さんたちは役員でありながら、役員の立場を利用していること。
伝えなきゃいけない事を頭の中でまとめる。
学年主任の先生は、玄関で私と斎藤さんを迎えてくれ、奥の談話室に案内してくれた。
お話を伺います、という先生の言葉を合図に私たちは説明をはじめる。
メモをとりながら先生は聞いてくれた。
途中で驚いた顔や、難しい顔をしながら。
ただ。
私たちの話を聞いたあとの、先生の言葉に私たちは少しがっかりした。
そこそこ予想していた、とはいえ。
「幼稚園で親睦会を推奨してはいますが・・・。母達の人間関係にまで口を出すことはできないのです。」
「口を出して欲しいわけではないんです。どう対応したらいいかお伺いしたかったんです。」
「そうですね・・・。ですが、山辺さん側のお話を聞いていないので、判断が難しいです。」
「・・・・。」
そう・・・ですか・・・。
確かに、私達からの話だけでは判断がつかない。
正論です。
だけど。
だけど、がっかりしてしまった。
藁にも縋る気持ちで先生に連絡したから。
藁にも縋る気持ちで先生に相談したから。
突破口が見いだせず意気消沈する私達に、先生は言った。
「ここだけの話ですが。山辺さんに関しては、これまで何度か似たような話を聞いています。母達とのトラブルも多いです。幼稚園の職員も気を付けながら対応しているお家なんです。」
「・・・はぁ。」
「ただ、ずっと見てきていますが、母達のことは母達で解決するのがいつもの流れのように思います。」
「・・・・。」
「表立って手助けはできませんが、幼稚園の職員としてどんなサポートができるのか、考えてみたいと思います。」
「わかりました、ありがとうございます。宜しくお願いします。」
事情を知らない役員
いま起こっていることを先生に伝えられただけでも、良しとしよう。
にしてもだ。
母達のことは母達で解決、といわれても。
一体どうしたら良いのだろう。
話を聞いてくれる人も思いつかないのに。
私と斎藤さんは先生にお礼を言って談話室をでた。
とぼとぼと途方に暮れながら、子どもを迎えに行くため移動する。
今日は学年主任の先生との面談のために、子ども達を預かり保育にしてもらっていたのだ。
いつもならひらりはバスにのって帰ってきている時間。
お迎えのママさん達も子供を連れ帰っており、幼稚園は静まり返っていた。
すると。
階段を上ろうとした私達に声をかけてくる人がいた。
「こんにちは!珍しいですね、今日預かりだったんですか?」
今年役員をしている樺沢さんだった。
樺沢さんはお仕事をしているので、よく預かり保育を利用しているようだ。
「あ、こんにちは。そうなんです、預かりでした。」
私達は答えた。
樺沢さんのほうから声をかけてくるなんて、ちょっと意外だった。
すると樺沢さんはこんな事を言った。
「この前のプレイランドは欠席で残念でしたね。次は来られるといいですね。」
「!?!?」
え??
樺沢さん、山辺さん達と一緒に役員やってるよね。
それなのに私たちのこと「ただの欠席」だと思ってたの?
これは一体。
・・・どういうことだろう。