ご近所の1年生と一緒に通学しなくなり、2学年上の史ちゃんと朝一緒に行くようになって2週間ほど経った頃。
その日は1年生だけ下校時間が早くて、他の学年が一緒にならなかった。
なので人が少ない時間帯に1年生だけで下校してくる。
それが少し心配だった私は、下校時間を見計らってぞうさん公園に向かって歩いて迎えにでた。
ところが、思ってたより子ども達が早く歩いてきたようで、家から2ブロック歩いたあたりで黄色い帽子の群れが見えた。
するとその中から1人だけ早歩きでこちらに向かってきた子がいた。
それは美鈴ちゃんだった。
そして私の近くに来た美鈴ちゃんはこう言った。
「ひらりちゃんが美鈴のこと仲間外れにしようとした!美鈴とは一緒に遊ばないって言った!」
「え??そんな事言った?」
「言ってた!ひらりちゃんは美鈴の事いじめようとしてる!」
「ええ??んと、それじゃあ。美鈴ちゃんの話が本当かどうか、あそこにいるひらりと麻未ちゃんに聞いてみていい?みんなのお話聞いてみないとわからないから。」
「・・・いいよ。聞けば。」
そう言って美鈴ちゃんは立ち去った。
誤解を避けるための電話
そこから私は早歩きをして、ひらりと麻未ちゃんの所へ向かった。
2人はいつも通りほわっとしていて、美鈴ちゃんとは違い和やかな雰囲気だった。
そこで珍しい人に気が付いた。
麻未ちゃんのママさんだ。
今日は珍しくお仕事がお休みで、麻未ちゃんを迎えにきていたらしい。
麻未ちゃんママもにこにこしている。
美鈴ちゃんと子ども達のやり取りを見てたはずなのに、にこにこしている。
もし「一緒に遊ばないと言った」とか「仲間外れにしようとした」なら、こんなににこやかにしているだろうか?
私はひらりと麻未ちゃんに、さっき聞いた美鈴ちゃんの話をする。
すると・・・。
「あぁ、それは違うよ。美鈴ちゃんが段ボール遊びをしたいって言ったんだけど、段ボールがちょっとしか無いから別の遊びにしようって言ったら、怒って先に行っちゃったんだよ。」
「それじゃあ、一緒に遊ばないって言ってないの?」
「一度も言ってないよ。」
「じゃあ、もしかしてひらりと麻未ちゃんは2人だけで遊びたかったりした?美鈴ちゃんがいない方が良いって思ってた?」
「ううん、そんな事ないよ。だったら別の遊びにしようなんて言わないでしょ?」
「そうだよねぇ。」
「美鈴ちゃんて、最近あんなふうなの?」
「そうだよ、言ってないのに『言った!』って怒りはじめて、どっか行くんだよ。」
「・・・。」
一緒にいた麻未ちゃんママにも聞いてみたけど、美鈴ちゃんが怒ってたけど大丈夫かしら?って感じで、ひらりと麻未ちゃんの認識に間違いはなかった。
これはまずい。
先日「触らないで」って言ったと細貝さんから電話がきたけど。
あの時は大変だった。
一言も言ってないのに。
「言ったってママに言って怒ってもらうから!」
そう美鈴ちゃんが言うの、とひらりは言っていた。
(言ったばかりでややこしいですよね(笑)ごめんなさい(汗))
まさにそれではないか。
てことは。
美鈴ちゃんは今頃家に着いて、ママに「ひらりちゃんが一緒に遊ばないって言った!」とか、私に言ったような事を。
細貝さんに伝えてるってことだよね?!
大変だ!
細貝さんに誤解されないように連絡しておかないと、また話がこじれちゃう。
事実確認の必要性
私はひらりを連れて家にもどり、すぐに細貝さんに電話をした。
すると、細貝さんは「もしもし」の時からすでに怒気を含んだ声を出していた。
ああ、これはもうナウで美鈴ちゃんの話を聞いてた感じだな。
今ならまだ間に合うかしら?
私は先ほどひらりと麻未ちゃんに聞いた話をする。
麻未ちゃんママにも確認したよ、と言うと角がたつし変に巻き込んじゃうかもと思い、「麻未ちゃんママもにこにこしてたよ」程度にして付け加えた。
ひらりと麻未ちゃんだけの話では、「二人が口裏を合わせていた」と信じてもらえない可能性がある。
なので第3者である大人の目線を付け加えた。
「・・・え、じゃあ。一緒に遊ばないって言ってないの?」
「うん、言ってないって。」
「仲間外れは?」
「仲間外れにするつもりなら、別の遊びにしようなんて言わないよね。」
「・・・いじめじゃないの?」
「一緒に遊ぼうと思って相談してたのに、いじめになるのかな?」
「・・・そ、そうなんだ。じゃあ美鈴の勘違い?」
細貝さんの声がだんだん細くなって、自信がなさそうになっている。
電話に出た時の勢いはどこへやら。
ただ、ここで「美鈴ちゃんの勘違い」としてしまったら、細貝さんの立場がなくなってしまうし、逆にむっとされるかもしれない。
「う~ん・・・。勘違いっていうか・・・。みんなまだ1年生だし、こういうことってあるんだね。」
「そ、そうだね。」
「今日は丁度良く全員の話が聞けて良かったね。」
「・・・うん。」
「また何か似たようなことがあったら、わたしからひらりに確認してもいいし。お互い誤解が無いようにしたいね。」
「うん、そう、だね。」
これで細貝さんも、子どもの話を鵜呑みにしないでくれるだろうか?
子どもの話の事実確認を少しはしてくれるようになるだろうか?
これ以上揉めないように
私はこれ以上揉めたくない、その一心だった。
細貝さんとこれ以上関係が悪くなるのは避けたかった。
美鈴ちゃんはどうも、思い通りにならないと癇癪をおこすようだ。
だけどまだ小学1年生。
成長の途中なんだから、こういうこともあるだろう。
だからこそ、大人である細貝さんには。
美鈴ちゃんの話を鵜呑みにせずちゃんと事実確認をしてほしい、そう思った。
こうやって全員の話が聞けて、証人と言ってもいい麻未ちゃんママがいてくれて、本当に今日は運が良かった。
そうでなければ、また大変な事態になるところだった。
にしても。
美鈴ちゃんがあの調子だと。
これまでの話に信ぴょう性がなくなる。
例えば、美鈴ちゃんが一緒に通学しないと言いだしたとき。
「美鈴が嫌な思いをしてて・・・」とか言ってたけど。
あの時だって細貝さんは美鈴ちゃんの話を、ちゃんと確認していなかった。
だから実際は。
今日みたいに美鈴ちゃんの一方的な勘違いだったかもしれないよね。
これまでの話が美鈴ちゃんの勘違いだったとしたら・・・。
美鈴ちゃんの話を真実だと思い込み、美鈴ちゃんの話だけで猛進してきた細貝さん。
美鈴ちゃんの話だけで全てを判断し、実際の様子をその目で見てこなかった細貝さん。
細貝さんは今、何を思っているだろうか。
一歩間違えば事件
その数日後。
ひらりがそろそろ学校から帰ってくるだろうという時間。
他の一年生が通ったのでもうすぐかなと思ってたんだけど、なかなか戻ってこない。
ちょっと気になったので、迎えに行ってみようと家をでたら。
スーッと一台の車が家の前に停まった。
細貝さんの車だ。
なんでうちに??
すると車の運転席から細貝さんが出てきた。
「あ、なんか、途中で子ども達を見かけて。それで送ってきたよ~」と笑顔で言う。
だけど。
その細貝さんの「笑顔」が変だった。
何かごまかしてるような、隠し事をしているような、そんなぎこちない笑顔だった。
変だなと思いつつも「あ、そうだったんだ?ありがとう・・・?」と答えたが。
頼んでもいないのに、いきなり車に乗せてくるっておかしいなと思う。
細貝さんが後部座席のドアを開ける。
ひらり・麻未ちゃん・美鈴ちゃんが乗っていた。
ひらりがパッと車からでてきた。
だけどなんか、顔色が悪いと言うか、表情がないというか。
ランドセルの肩ひもをぎゅっと握りしめて、張りつめている感じがした。
明らかに様子がおかしい。
「ひらりちゃん、またねぇ~」と細貝さんに声をかけられると、ひらりはちょっとビクっとして振り向き、「ありがとうございました。」と言った。
そしてそのまま私の後ろに隠れた。
まだ車内にいた麻未ちゃんは、ひらりを気遣うような目でこちらを見ている。
その奥の美鈴ちゃんの表情は薄暗くてよく見えない。
細貝さんは変な笑顔を浮かべたまま、「じゃあ麻未ちゃんを送ってくるから、またね」と言って車に乗り込みいなくなった。
ひらりの様子がおかしい。
いきなり細貝さんが車で送ってくるのもおかしい。
何かあった??
子どもの話を鵜呑みにしてキレた
すぐに家に入り、ひらりに声をかける。
「ひらり、顔色が悪いし様子が変だよ?何かあった?」
思い出したくもないのか、顔をぎゅっとしかめてうつむくひらり。
「・・・怖かった。」
開口一番、ひらりはそう私に告げてきた。
怖かった???
一体何があったっていうの?
思わずひらりをぎゅーっと抱きしめる。
「そっか、怖い思いをしたんだね。もう大丈夫だから。」
「・・・うん。」
安心したひらりは少しづつ、何があったか教えてくれた。
その間、ずっとひらりを膝にのせて抱きしめていた。
かいつまんで言うとこんな感じ。
麻未ちゃんと2人で「今日は『り○ちゃん人形』で遊ぼうか」と相談しながら歩いていると、後ろから美鈴ちゃんが走ってきた。
「今日一緒に遊べる?」と美鈴ちゃんに聞かれた。
なので、「遊べるけど美鈴ちゃん『り○ちゃん人形』持ってる?」と聞いた。
美鈴ちゃんは持ってないというので、じゃあどうしようか、どうしたら3人で遊べるかな、交代にすればいいかなと話し合いを始めたら。
美鈴ちゃんは、「人形持ってないから一緒に遊びたくないって言うんだね!仲間外れだ!」と怒ってまたいなくなった。
おいおい、この前と同じパターンじゃないか。
だけど、そこでおかしいなと思う。
今日は水曜日。
美鈴ちゃんはもともと水曜日に習い事があって、一緒に遊べないはず。
細貝さんが車で一緒にいたってことは、習い事に遅れないように車で美鈴ちゃんを迎えにきていたって事だし。
で、話の続き。
そこから少し歩いた小路の角に車が停まっていて、それが細貝さんの車だったらしい。
近づくと急にドアが開いて「乗って!」と美鈴ちゃんママに言われた。
車の座席には美鈴ちゃんが乗っていた。
声が怒った声だったから、怖いと思って断った。
そしたら今度は優しい声で「お家まで送ってあげるよ~」と言ったそうだ。
座席にいる美鈴ちゃんもにっこりして手招きしているので、大丈夫かなと思ってひらりと麻未ちゃんは車に乗った。
するとドアが閉まった瞬間。
「ちょっとあんた、うちの美鈴を仲間外れにしてるんだってね??」
美鈴ちゃんママの声が急に乱暴になって、怒り始めたそうだ。
車を降りたかったけど走ってるから出られなかった。
車のなかではずっと美鈴ちゃんママが怒ってあれこれ言っていた。
もういっぱい言われ過ぎて細かく覚えてないけど、内容はいじめをやってるとか、お前は最低だとか、美鈴に嫌な思いをさせたら許さないとか、そんな話だったそうだ。
しかも道も少し遠回りしたようで、通学路と違う道も走ったと言っていた。
どうりで帰りが遅かったわけだ。
てことは。
細貝さんは車で美鈴ちゃんを迎えに行って、美鈴ちゃんを乗せた。
車内で「仲間外れにされた」と美鈴ちゃんから聞いてキレて。
車で待ち伏せして。
騙すようにして車に子ども達を乗せて。
事情も聴かずに、車の中で怒って叱って言いたい放題言って。
話が済むまで車で連れまわして。
で、最後は「送ってきてあげたよ~」とあの笑顔だったわけだな?
本当は学校に連絡したかった
話を聞いてまず思ったのは「無事で良かった」だ。
もし車内でひらりが反抗的な態度をとっていたら、一体どうなっていただろう。
本当に無事で良かったと心から思うし、その紙一重ぶりに手が震える。
危なかった。
本当に危なかったと思う。
震えと共に怒りも一緒に込み上げる。
よくぞここまでの事をやってくれたな。
よく確かめもしないで思い込んでるだけのくせに、自分の怒りを人の子にぶつけるなんて、大人のすることではない。
まして半ば騙すようにして車にのせて、挙句連れまわしまでやってる。
で、それが良くない事だとわかっているから、あの変な笑顔を貼り付けて「送ってきたよ~」と言ったわけでしょ?
車の中で叱らせてもらった、ってはっきり言ったほうがよっぽど誠実だったよ!
これは一歩間違えたら事件だった。
どうしよう、学校に連絡するべき?
それとも警察?
それとも両方?
頭のなかでどこに連絡すべきかぐるぐる迷う。
だけど、どう説明すればいいか考えた時に気が付いた。
ひらりの話だけで判断してしまっては、細貝さんと同じになってしまう。
確かに子どもの口からショッキングな話をされたら、気が動転するのは分かる。
今の私もそうだ。
だけど、だけどやっぱり。
ここはちゃんと事実確認をしなきゃ。
そうは言っても。
頼んでもいないのに車に乗せてきたこと、細貝さんのあの変な笑顔、ひらりの様子がおかしかった事。
私が知っている範囲だけでも、もう確実にやったでしょって思うけどね。
子ども同士に首を突っ込む親
ひらりに話を聞き終わって落ち着いたころ、麻未ちゃんが人形をもって遊びに来た。
約束してたので、あんな事があっても来てくれたようだ。
ひらりが言ってたことが本当かどうか、麻未ちゃんに聞いてみないとと思う。
あんまり気持ちのいい話ではないので。
「美鈴ちゃんママに送ってもらってどうだった?」と聞いてみた。
すると麻未ちゃんは、目を大きく見開いて首を左右に振って震えた。
「・・・怖かった。美鈴ちゃんママおかしかった。ひらりちゃんの事ずっと怒ってたんだよ。ひらりちゃん大丈夫?」
「うん、ありがとう。ひらりはだいぶ落ち着いたよ。そっか、麻未ちゃんも怖い思いしたんだね。もう平気?」
「うん。」
2人は人形で遊び始めたけど。
帰り際にこう言った。
「もう美鈴ちゃんとは遊びたくない。」
そうだよね、そうなっちゃうよね。
細貝さんなんでこんな事できたんだろう。
美鈴ちゃんのお友達がいなくなっちゃうよ?
怯える子ども達
麻未ちゃんとひらりが遊び始めたので、あんまり細かい事は確認できなかった。
だけど、大まかな流れは確認できた。
ひらりが言ってたことと麻未ちゃんが言ってることに相違点がないので、やっぱり細貝さんはやっちゃったんだと思う。
2人は「本当に怖かったね。もう2度と美鈴ちゃんちの車に乗りたくないね。」と言っていたので。
今度から「親同士でお約束してない時は、誰の車にも乗らないようにしようね。」と約束した。
知らない人の車に乗ってはいけません、と学校で教えてもらっているけど。
実際は知っている人の車でも危ないんだ、ということが分かったから。
麻未ちゃんが帰った後に、ひらりはこう言っていた。
一緒に車に乗っていた美鈴ちゃんが、下を向いて表情を隠しながら。
ニタァと口角を上げて笑っていたと。
美鈴ちゃんママに怒られてるのをみて、美鈴ちゃんが嬉しそうにしている。
それに気が付いたとき、ひらりは背筋が寒くなってぞわっとしたそうだ。
そうかもしれないな、と思う。
「ママに怒ってもらうから」と言ってた美鈴ちゃん。
それが目の前で叶って嬉しかったのかもしれない。
美鈴ちゃんがまだ子供だから。
まだ子どもだからこその、剥き出しの無垢な悪意だったんだろう。
そしてひらりはそれを見てしまったんだと思う。
ママに怒ってもらうために、にこにこして車に手招きした美鈴ちゃん。
ママに怒られるひらりをみて、ニタァっと喜んでしまう美鈴ちゃん。
私の知っている美鈴ちゃんはそんな子ではなかった。
細貝さんと同じように、美鈴ちゃんもまた別人になっていたと知ったのだった。
怖がらせれば思い通りになるのか
細貝さんはなんでここまでやったんだろうと考えてみる。
思い当たるのは、先日美鈴ちゃんが「一緒に遊ばないと言った!」と怒って帰った時のこと。
実際は段ボール遊びじゃなくて別の遊びにしようと言っただけだった。
細貝さんとこれ以上揉めないように、私は全員から話を聞いて細貝さんに電話をした。
美鈴ちゃんが思い込んで、勘違いをしていた。
だから細貝さんには。
子どもの話を鵜呑みにせず、事実を確認してくたらいいなと期待していた。
だけど結局、全然別の方向に行ったわけか。
仲間外れにされているという美鈴ちゃんの言葉を、細貝さんは証明したかったんだろう。
美鈴ちゃんの話は事実と違うと私に聞かされて、細貝さんはやっぱりイラっとしたのだろう。
事実を確認せず美鈴ちゃんの話を信じ切って、子ども達に怒りをぶちまけるという大人らしからぬ奇行に走るなんて・・・。
美鈴の言ってることが本当なんだから、この子たちを成敗してしまえば今後は大人しくなるでしょ、とでも思ったのだろうか?
それとも、美鈴が言った通り悪い奴らだったので叱っておいた、という既成事実でも作りたかったのだろうか?
もしくは「仲間外れにしようとした」という美鈴ちゃんの言葉を聞いて、瞬間的に頭が沸騰したのだろうか?
だけどさ、今日は美鈴ちゃんそもそも遊べない日だったわけだし。
だから細貝さんが車でお迎えに来てたわけだし。
ここまでやるかね。
残念なことに、今回の車に乗せて連れまわし車内で叱り飛ばした細貝さんの行為は、車内という密室で行われた。
しかも証言できるのは子どもだけなので、これを追及するのは難しかった。
正直言えば、学校には連絡したかった。
だけどやっぱり、有力な証拠がない。
細貝さんにシラを切られれば終わりなのだ。
そしてここまで大胆な行為ができるのは。
細貝さんには強力なバックがついているからだろう。
細貝さんはそれを分かっててやったんだと思う。
もし何か揉めたら、三津屋さんのグループが自分の肩を持ってくれる。
話をうやむやにするか、峰岸が悪い事にするか、そんなところだろう。
そして、そう思い当たって気が付く。
そうだ、ってことは。
「送ってきました~(変な笑顔)」に合わせなきゃいけないってことだ。
何事もなかったよ、私は親切に送っただけだよ、そう細貝さんが取り繕ったんだから。
証明できない以上それに合わせておかないと、「峰岸さん、送ってもらっておいて細貝さんに文句言ってる」となるだろう。
これじゃあやったもん勝ち、しらばっくれたもん勝ちじゃないか。
本当にひどい事をする。
人としてあり得ないのは細貝さんのほうじゃない、と思う。
子ども達を怖がらせて、それでこれから子供たちが上手くいくと思ってるんだろうか?
車内で怒って連れまわして、美鈴ちゃんと仲良くしたいと思うだろうか?
美鈴ちゃんのママが怖いから、美鈴ちゃんと仲良くします、なんてことあるんだろうか?
脅したら思い通りになると、本気で思ってるんだろうか?
本当に細貝さんが何をしたいかさっぱりわからない。
美鈴が傷つけられたと騒ぐことで人が離れていく。
美鈴ちゃんの友達を減らしたいの?増やしたいの?
細貝さんの行動は短絡的だし、矛盾だらけだよ?
ひらりも麻未ちゃんも、もう美鈴ちゃんと遊びたくないって言ってたよ?
ただ、今度こそ真剣に細貝家から離れなければならない。
このまま接点があったら危なくてしょうがない。
きっかけは美鈴ちゃんなので、美鈴ちゃんとの接点を減らすしかないと思う。
にしても本当に。
三津屋さんはたくさんの人を巻き込んで、罪なことをするなぁと思う。
三津屋さんと知り合っておかしくなった細貝さん。
美鈴ちゃんは多分、そんな細貝さんの影響を受けているんだと思う。
今日の出来事は、一歩間違えば事件だった。
本当にこんなことする人がいるんだと、心底肝を冷やした。
だけどこういう人が実際にいるから、事件やニュースになるんだろうね。
本当に本当に、ひらりと麻未ちゃんが無事でよかった。
ひらりが泣いたり反抗したりしなくて偉かった。
あの子は本当によく耐えたと思う。
まだ1年生の子供に、まだ6歳の子どもに。
どうしてこんなひどい事ができるんだろうと、私は心から悲しくなっていた。