幼稚園からお付き合いしてきた、細貝家と増山家。
細貝家に関してはこれまでお話ししてきた通り、完全に破綻して関係が切れていた。
関係が切れたとは言っても。
学校などで細貝さんと顔が合えば、タヌキとキツネの化かしあい宜しく「こんにちわぁ」とにこやかにご挨拶くらいはする。
増山家のママさんは通常通りだったけど。
朝の通学がなくなったら、クラスも違うし放課後も会わないしで、風華ちゃんとひらりが接する機会はほとんどなくなった。
増山さんとの関係はそもそも「ママ友」なので、子ども同士のお付き合いがなくなれば自然と親同士のお付き合いも減った。
もちろん増山さんと会えば、普通に挨拶もするしお喋りもする。
だけど朝一緒に通学している&学童のつながりで、増山さんは三津屋さんグループの輪にいる事が多くなった。
ひらりも私も。
ご近所同級生女子の輪から、徐々に、じわじわと外されていくのを感じていた。
結局のところ。
細貝家・増山家の、幼稚園仲間とは疎遠になってしまった。
まだ小学校にあがって1年もたっていないというのに・・・。
そんななか、それでも変わらず仲良くしてくれる友達がいた。
お互いに趣味が似ていて気が合うのもあるんだと思う。
ご近所同級生女子のなかでも。
数藤麻未ちゃんだけは、色々あった今でもひらりと変わらずお付き合いしてくれていた。
仲良く過ごす冬
細貝さんとのゴタゴタがひと段落した頃、季節は冬になっていた。
もうすぐ冬休み。
クリスマスもすぐそこ。
そんな時、ウチに遊びにきていた麻未ちゃんが言っていた。
「みんなでクリスマスパーティするみたい。」
・・・へ~?
そのクリスマスパーティとやらの「みんな」は、ご近所同級生女子のことらしい。
ひらりだってご近所同級生女子なんだけど、そんな催し聞いてないし、誘われていない。
話によると澤さんちに集まってケーキを食べたり遊んだりするそうな。
ひらりが「クリスマスパーティかぁ、いいな。私も行ってみたい。」と言ったら。
麻未ちゃんは目を丸くして、「あれ?ひらりちゃんちに連絡来てない?」と驚いていた。
もしかしたら。
ひらりになかなか声をかけられなくて遅れてるのかな?
それとも。
ひらりに声をかけるの忘れちゃってるのかな?
そう思ってギリギリまで待ってたんだけど。
結局ひらりは呼ばれなかった。
ご近所から外されても
結局のところ、そのクリスマスパーティの集まりは。
「朝一緒に通学している子たちで」っていう括りだったそうだ。
一緒に通学しているママさん同士で話が盛り上がって、そういう事になった、と。
ひらりはご近所同級生女子と一緒に通学していない。
なるほどね、と思った。
これがやりたかったのかな、とも思った。
ご近所から外す、孤立させる。
ウチだけ呼ばない、呼ばれない。
そういう機会を作って。
ひらりを外したところで密な友人関係を築かせる。
ひらりがいないことすら気が付かない、そんな関係を。
三津屋さんのやりそうな事だなぁと思った。
クリスマスパーティを経て、麻未ちゃんはご近所同級生女子たちとの仲が深まったようだけど。
それでも変わらず、ひらりと仲の良い友人でいた。
無邪気に遊ぶ子ども達
麻未ちゃんは、そんな親たちの思惑など関係のない世界に住んでいた。
子どもらしく、無邪気で、素直な子だった。
そんな麻未ちゃんだから。
クリスマスパーティで面白かった遊びを覚えてきて、ひらりともやってくれた。
ビンゴが面白かったそうで、2人で景品を作り、2人でカードを作り、2人でくじを作って。
そうやって手作りビンゴゲームをして遊んだ。
ひらりもクリスマスパーティに呼ばれなかったことが残念だったようだけど。
それでも、いつまでも気にしていなかった。
こうやって麻未ちゃんと遊べるし。
習い事も忙しいから。
そう言っていた。
ひらりに声をかけないご近所さん達。
やっぱり親としては切ないものがある。
もやもやするし、悲しい。
親は親、子ども達は子ども達じゃないの?って思う。
朝一緒に学校に行ってる繋がりで、って言われたらそうかもしれないけど。
ご近所女子でひらり1人だけ呼ばれてない状況を、誰も疑問に思わないんだなって。
それを目の当たりにした出来事だった。
だけど。
こんなことで落ち込むのはやめよう。
ひらりだって、もう気にしてないんだから。
無邪気に遊ぶ子ども達。
ひらりと麻未ちゃんが楽しそうに遊んでいる姿。
今はそれが幸せなのだから。
親が介入しなければ
細貝さんが三津屋さんと知り合って1カ月でおかしくなったことを考えれば。
三津屋さんのグループでは私の良からぬ話が出ているんだろうと思う。
有り体に言えば、悪口を言われてるんだと思う。
だからきっと。
麻未ちゃんママだってそれを耳にしているはずなんだよね。
その割には。
授業参観で会うと数藤さんのほうから声をかけてくれるし、私の隣にいてくれる事も多い。
麻未ちゃんとひらりが仲良しなのも理由の一つかもしれない。
だけど、数藤さんからは感じる。
「私は何を吹き込まれても自分で判断するよ。」
そう言われてるような気がしていた。
女のドロドロは煩わしい
麻未ちゃんのママ、数藤さんは。
バリバリのキャリアウーマンだった。
旦那さんのご両親と同居で2世帯住宅を建てたこともあり、パパさんと同じくらいお仕事をしている。
おじいちゃんおばあちゃんが子どもをみてくれることもあって、フル稼働で働いていた。
だからだと思う。
数藤さんはママさん同士のお付き合いに積極的ではなかった。
必要最低限で済ませたそうにみえた。
それはそうだろう。
お仕事が忙しいのに、ママ友付き合いにどっぷり浸かってるヒマなんてない。
仕事に打ち込んでいる人にとっては、ママ友のドロドロ話なんて煩わしいだけなんだと思う。
現場で厳しく揉まれている人にしてみたら、悪口を共有してイチャイチャしているママの輪が陳腐にみえたんじゃないかな。
数藤さんは悪口に染まらない人だった。
社会に出て鍛えてるだけあって、自分の中心にしっかりした軸がある人だった。
そのせいもあってか、ひらりと麻未ちゃんの関係は穏やかで円満だった。
親が変に介入しなければ、これが普通の子ども達の姿なんだと思う。
親が変に介入しなければ、こうやって互いを知り学びあうものなんだと思う。
引き裂かれる予兆
細貝さんとのゴタゴタがひと段落したと思ったら。
今度は桃亜ちゃんが絡んでくるようになった。
麻未ちゃんとひらりは同じクラスで、教室にいても仲が良い。
お昼休みに遊んだり、教室の移動も一緒にするそうだ。
ところが。
麻未ちゃんとひらりが一緒にいると、そこに桃亜ちゃんが入ってくる。
入ってくるのは全然構わない。
3人で楽しく過ごせばいい。
だけど、困っているのはそうじゃないから。
なんと桃亜ちゃんは、麻未ちゃんの手をつかんで強引に連れて行ってしまうそうだ。
当然ひらりはその場に一人取り残される。
そんな事が最近多くなったと、ひらりは言う。
先生に相談してみても、仲良しな友達の取り合いだと思っていて、みんなで仲良くしましょうねという感じ。
まぁそうだよね、普通に考えればそうなる。
んでも、どうだろう。
このタイミング、この状況で今度は桃亜ちゃん。
それに先生がいるところでは、麻未ちゃんを強引に連れ去ったりしない。
桃亜ちゃんは大人がいないところでそれをするのだ。
いない日に限って
その他にも今までと違う動きがでてきた。
それは、麻未ちゃんとご近所同級生女子のつながりについて。
最近は学童に行っている子が学童をお休みして、麻未ちゃんと放課後遊ぶようになった。
しかもひらりが習い事でいない日だけ。
まるでローテーションを組んでいるかのように数人が学童を順番にお休みして、ひらりがいない日に麻未ちゃんと遊ぶ。
ひらりと麻未ちゃんと学童の子、という組み合わせになることは一度もなかった。
もっと言えば、ひらりが学童の子と一緒に遊ぶ機会は一度もなかった。
ご近所同級生女子の学童組は、麻未ちゃんとだけ、遊んでいた。
麻未ちゃんが楽しそうにしているので良い事なんだと思うし、遊ぶ子が増えたからといってひらりと疎遠になったわけでもない。
だから全然いいんだけど。
なんか。
なんか引っかかるんだよね。
美鈴ちゃんが去って束の間。
また何かが、静かに近づいてくる予感がしていた。