夫の謝罪と反省。
ありがたい申し出。
思うところが無いわけではないが。
私はこの夫と、改めて家族として向き合ってゆくことにした。
私とひらりがこの住宅街で幸せな毎日が送れるよう、夫は車を買おうと言ってくれた。
その言葉をありがたく受けることにした。
「燃費が良い車がいいなー。」
「そこまで遠出しないから、小回りのきく軽がいいよね。」
翌日の夜から、早速どの車がいいか検討が始まった。
中古車か新車かでも迷ったが、長く乗るものだからと頑張って新車を買うことにする。
どの車にするか夫はあらかた見当を付けていたようで、迷うことなくすんなり決まった。
週末、ひらりを連れて3人でディーラーに出かける。
オプションで迷ったり、車の色で迷ったりしたが、それもとても楽しかった。
早ければ一ヶ月で納車になるそうだ。
○○森林公園や、○○ランドにも連れていける。
ひらりが喜ぶ顔が目に浮かぶな。
ひらりと車で出かけられる日常を思うとワクワクした。
納車がとても待ち遠しかった。
立場が変わって見えたもの
だんだんと気温が上がってゆき、季節はもうすぐ夏。
三津屋家&堀内家の、ご近所ママは今日も外ではしゃいでいる。
日が高くなったせいもあるが、この2人は子どもを遊ばせながらお喋りに興じ、19時の日没まで外にいるようになった。
桃亜ちゃんや海里くんが「お腹すいた」といえば、お菓子とジュースを与えて、そのまま19時まで粘るというありさま。
そしてその食べた後のお菓子の袋が・・・・。
我が家の駐車場や玄関先に落ちてたりする。
わざとではないと思う。
それは先日、リビングの奥からこんな光景を目にしたから。
桃亜ちゃんがお菓子の袋を持って、フラっと我が家の敷地に入り、玄関アプローチの花をつんでいた。
花を持つことに気を取られて、そのままお菓子の袋を置き去りにしていった。
親たちは話に夢中で、子どもが何をしてるか関知していないようだった。
三津屋家と堀内家のパパさんは、毎日帰りが遅いので19時まで外にいても問題ないのだろう。
考えたって解決しない
新車が来るまでの間、旧ママ友さん達とはできるだけ関わらないようにして過ごした。
早めの時間に外出したり、窓を閉めエアコンをかけて外の声が聞こえないようにしたり、15時頃から早々とご飯の支度をしたり、と生活リズムを変えた。
それでもやっぱりお隣さんなので、声が聞こえてくるし遭遇してしまうのだ。
礼儀として仕方なく、会釈したり挨拶したりしてみるが、もちろん無視。
そうすると。
やっぱり気が滅入る。
やっぱりすっごく嫌な気持ち。
怒りや悲しみが胸に渦巻いてしまう。
そんな気持ちに囚われてしまう自分をどうにかしたかった。
だって。
どうしてこうなった?何が悪かった?何がそんなに気に入らない?ひどいよ!苦しいよ!って、また鬱々と考えてしまうから。
でもさー、結局考えたって意味がないんだなって気付く。
三津屋さんも堀内さんも、私とまた仲良くする気なんてないから。
また仲良く付き合う気があるなら、そもそもいじめなんてしないものね。
趣味は自分を助ける
そんな私には、旧ママ友さん達から心を離す努力が必要だった。
意識して考えないようにする必要があった。
そうでもしないと、また考えてドツボにはまってしまう。
そこで何か夢中になれることをしようと思った。
まず思いついたのは、大好きな「読書」だ。
出産前にドハマりしていた漫画や小説を引っ張り出してくる。
家事や育児の合間、寝る前など、時間を見つけて没頭した。
読書って、今いる現実から離れられるところがイイ!超イイ!
この世界から抜け出して、別の自分の世界を広げられる。
その後にやってきたのは「韓流ドラマ」。
昼過ぎに放送してるのをかじってから、ハマった。
ビデオを借りに走るっ!
(今みたいに動画サイトがなかったからね、レンタルに行ったの)
ひらりも一緒に観ちゃってる・・・。
案外好きなの(笑)??
ドラマはね、トキメキがたまらなかった!キュンとしちゃう!
ママやってるとね、不足するの。トキメキがー!
そんなこんなで好きなことに没頭してみた私は。
かなーり回復した。
正常なメンタルと冷静さを取り戻した私は、もう無視されても・・・。
それほど気にならなくなっていた。
旧ママ友のことより、漫画の続きが気になる、ドラマの続きが観たい。
ずっと家事と育児に追われて忘れてたけど。
楽しい事っていっぱいあるんだった!!
ママ友との交流が全てじゃなかった。
私のなかで、そう実感できたことが何より大きかった。
子どもと過ごす幸せ
ついに我が家に新車がやってきた!
待ちに待った自家用車!
近くを少し走らせて、運転の感覚をつかむ。
よし、これなら大丈夫そう。
翌日チャイルドシートをセットし、ひらりを乗せて出かけた。
今までなかなか足を運べなかった森林公園に行ってみる。
車って荷物がたくさん積めるから助かる!
ベビーカーも積んだし、ひらりの着替えや靴、いつもは数が持てない予備のグッズも多めに持っていける。
今日は暑くなるらしいから、午前中に行こう。
木陰や小川、珍しい遊具、森の散歩道。
ひらりは目を輝かせてたくさん遊んだ。
私もひらりと体を動かして、たくさん遊んだ。
ひらりが元気に走り回る姿。
ママー!と話しかけてくれる事。
素直な笑顔を向けてくれる。
手をつなぐ。
遊具にチャレンジする。
そのどれもに胸が熱くなった。
私は忘れていた。
見えなくなっていた。
ママ友とのお喋りや交流に気を取られて、本当に大切なものを見失っていたんだ。
ひらりと一緒に過ごせること、ひらりが元気に育ってくれてること、そのどれもが大切でかけがえのないものなのに。
そしてこんなに幸せなのに。
落ち込んで、悩んで、苦しんで。
そんなことに気を取られている場合じゃなかった。
(あー 私 幸せなんだな)
抜けるように青い空の下。
私とひらりは芝生に寝っ転がって笑いあった。
知らなかった事実
車で出かけるようになると、本当に世界が広がったようだった。
ひらりとどこに行こうか考えるのも楽しい。
遊んだついでに、地場産センターや道の駅に寄って買い物をしていくのも良い。
今日の夕食も、新鮮お野菜の料理が並ぶ。
そうだ、忘れちゃいけない!
今年もお庭でプールをしよう。
桃亜ちゃんがたまに覗いてたけど、気にしない。
思いっきり楽しく過ごした。
声をかけられる
生活リズムを変えて、車で出かけるようになったら。
旧ママ友との接点は殆どなくなっていた。
ショッピングモールで買い物をし、ひらりと昼食を食べ、車で戻ってきた時だった。
珍しい人に声をかけられた。
三津屋家のお隣で、堀内家お向かいの「剣持さん」だ。
剣持さんはご主人と2人暮らし。
お子様がいらっしゃらないので、今までほとんど接点がなかった。
剣持さんとはご挨拶くらいの間柄。
「峰岸さん、こんにちは。」
剣持さんは周りの様子を伺いながら、私に話しかけてきた。
少しの世間話のあと。
「あのさ、ちょっと聞きにくいんだけど・・・。三津屋さん家から・・・子どもの泣き声が凄くて。もしかして、虐待とかじゃないよね?」
そうか、それが聞きたかったのか。
瞬時にそう理解した。
最近は三津屋さんと一緒にいないし、周囲からも関係が切れたと判断されてるようだ。
だからその辺の事情に詳しそうな私に聞いてきた。
三津屋家と堀内家は車がないから不在のようだし。
きっとタイミングを見計らってたんだろうな。
それにしても。
三津屋さんがそんな風に見られてたなんて知らなかった。
確かに・・・あの半狂乱の泣き声を聞かされてたら、そう思うのも無理ない、か。
同じにはならない
三津屋さんが良く思われていないと、肌で感じた。
虐待、かぁ・・・。
桃亜ちゃんの体にアザがあったとか、痛がってるとかはないから、暴力はしてないと思う。
接し方にしても、分かる範囲だけど、そこまでおかしなところは無い。
どちらかと言えば。
三津屋さんは甘いんじゃないかと思っていた。
桃亜ちゃんに「ダメ」って事を教えられない、というか。
桃亜ちゃんが泣いたら、折れて「いいよ」って言ってしまう。
だから桃亜ちゃんは自分の我が通るまで泣いてる。
もはや親と子の根競べ。
そんな風にみえたな、私には。
ただ・・・。
心のなかで悪魔がささやく。
(三津屋さんはそういう人ですよ、虐待かもしれませんね。)
そう言ってしまおうかと思った。
三津屋さんも堀内さんも、大人になってまで「いじめ」をやるような人だ。
彼女たちの行いを責めたい、断罪したい、世に知らしめたい。
そんな気持ちがどこかにあった。
だけど・・・。
そんな事したら。
自分の事を嫌いになってしまう。
彼女達と同じになってしまう。
一瞬迷ったけど、私は悪意に惑わされないぞー!
「いえ、多分それはないかと・・・思いますよ。」
「・・・そう?それなら良いんだけど。心配しちゃった。」
子どもを放置している
そこで話が終わるかと思いきや、また別件がでてきた。
「・・・もしかしたら嫌がらせかな、って思うことがあって。玄関や庭先にお菓子のゴミを置いていかれるし、花とかむしられるんだよね。」
ああ、それね。って思った。
やっぱり剣持さん家も被害にあってたか。
「・・・・あ~、それうちもです。」
三津屋さんと堀内さんはお喋りに夢中で、子ども達をみていない。
だからわが子が、隣近所にゴミを置いていったり、庭を荒らしたりしてるのも関知してないんだと思う。
なるほど、三津屋さんを良く思ってないわけだ。
それからこうも言っていた。
「夜、寝ようと思って電気を消すと、窓に水をかけられるの。」
・・・・え!!!
寝ようと思って電気を消すと、おそらく水鉄砲か何かで、窓に水がかけられるんだそうな。
寝る時間はまちまちで、早目の時もあればかなり深夜の時もある。
毎回ではないが、たまに。
三津屋家に面した窓なので、他のお家の可能性はないそうだ。
「もしかしたら桃亜ちゃんですかかねぇ?もうすぐ3歳だし、イタズラしてるのかも?」
「それがね、子どもが起きてるような時間じゃないの。だから怖くて。」
さすがにここまでくると、私も分からないし、フォローもできない。
剣持さんは、気味が悪いと言って困っていた。
また別の日。
なんと今度は、別のご近所さんにも「三津屋さん、虐待してない?」って聞かれた。
(三津屋家よ、どうなってるんだ・・・。)