幼稚園の見学から帰ってきたひらりは、とてもご機嫌だった。
もうすでに野木桜幼稚園に通うつもりのようだ。
ふんふんと鼻歌を歌いながら、くるくる部屋の中で踊っている。
私も、見学させてもらった野木桜幼稚園を思い出してみる。
子どももたくさんいたし、施設も整っていたし。
私が知ってる頃の幼稚園より、ずっと進化してる気がした。
野木桜幼稚園でもらった資料を見直す。
夫が帰ってきたら、幼稚園の話をしなきゃ。
ダメとは言わないと思うけど、幼稚園は高いって思いこんでるかも?
あと私も仕事を始めようと思ってるって、それも言わなきゃね。
入園試験にむけて特訓する
夫が帰宅して夕飯が済んだら、少し時間をもらって相談する。
「今日、野木桜幼稚園を見学してきたんだけど、良さそうなところだった。ひらりも気に入ったみたいだし、4月から幼稚園ってどうかな?」
正直夫は、幼稚園と保育園の違いも良く分かっていない様子だった。
ひとまず小さな子が行くところ、そんな感じ(笑)
なので、ひらりが行きたいならという事ですんなりOKがでた。
「ちなみに試験があるんだよね」と言うと、夫はそっちの方にびっくりしていた。
「なにそれ?!ひらりが試験うけるの?大丈夫か?」
一気にお受験ムードが高まったが、試験内容を聞いて少し落ち着いた。
まずは試験に受からなきゃね、という点で夫婦の意見は合致し、明日から練習することになった。
思いがけない回答
ひらりが遊んでいる最中だと、そっちに気を取られて反応してくれない。
なので、ちゃんと「練習」という時間を作る。
向かい合わせに座り、雰囲気作りからいく。
それでは・・・、とひらりに質問をしてみた。
「お名前を教えてください。」
「・・・・えーっとぉ・・・。」
やばい、ひらり、名前でてこないの?
ひらりはしばし考えている。
「えーっと・・・ひーちゃんです!」
なぬーー!
いつもパパとママが「ひーちゃん」って呼んでるから、それがでてきたんだろう。
間違いではないけど、試験で求められている答えではないよね。
「ひらり、お名前はって聞かれたら『みねぎしひらりです』って言うんだよ。」
「ふ~ん。」
「ひーちゃんでも合ってるんだけど、幼稚園の先生はひらりの事知らないから、聞かれたら名前を全部教えてあげた方が喜ぶんだよ。」
そう言ったら、納得した様子だった。
一緒に言ってみよう、と誘って「みねぎしひらりみねぎしひらり・・・」と親子で呪文のように唱えて練習した。
さて仕切り直しだ!
「お名前を教えてください。」
「・・・みねぎしひらりです。」
ヨシッ!
呪文作戦の成果が出たようだ。
2歳児の発想に悶絶
しばらくは呪文作戦を実行し、隙あらばお名前を聞くようにして過ごした。
目標があると、他の事に気を取られずにいられる。
外で旧ママ友の声がしてても、耳に入らなくなってきた。
ひらりも「幼稚園に行くならこれができないと」と言うと、頑張ってチャレンジするようになった。
明確な目標があるって、大切なことなんだね。
この短い期間でたくさん成長した気がする。
ある日夫が練習の成果を見たいと言ってきた。
せっかくなので、夫に面接の先生役をやってもらうことにした。
リビングのドアを、試験会場のドアに見立てて、入る所からやってみる。
「(トントン)失礼します。」
親(私)も同伴なので、この辺は問題なさそう。
ひらりと2人で夫の向かい側に座ると。
夫が先生っぽさを醸し出しながら言った。
「それでは、お名前を教えてください。」
「・・・・・・。」
(あれ、ひらりどうした、名前でてこないの・・・?)
ひらりはうつむいてモジモジしている。
「・・・みねぎし・・・みねぎし・・・。」
(うんうん「みねぎし」は言えたね、つぎは・・・?)
はっ!と、ひらりは何かを思いついた顔をした。
(よし、思い出した?!)
「・・・みねぎし かわいいちゃんですっ!(ドヤ顔)」
夫「・・・・。」
私「・・・・。」
次の瞬間、私たちはお腹を抱えて大爆笑!
アカン、これ腹筋やられるやつ・・・!
確かに普段から、ひらりの事が可愛くて「かわいい~」って言うけどさ。
いつの間に名前が「かわいい」になったの?(笑)
誰が教えたわけでもない珍回答を繰り出すひらりに、笑い転げた夜でした。
入園試験を乗り越えよ!
あの「かわいいちゃんです!」発言の後から、ひらりは入園の面接練習に身が入らなくなってしまった。
そう。
ばかうけしてしまったため、受けを狙うようになったのだ。
(まずい。これはまずいぞ・・・。)
最近は「みねぎしひらりです」って言わなくなってきた。
そんな不安を抱えたまま、入園試験当日を迎えた。
いざ、親子で面接試験
娘の初の試験なので、夫も一緒に行くと張り切りだした。
そんなわけで夫も仕事がお休みになり、夫婦そろって面接にでかけた。
もっとたくさんの保護者に会うかと思ったら、そうでもなかった。
時間で細かく区切られてたようで、廊下にいたのは2組。
園内の大ホールには、試験が終わって遊んでいる様子の親子が3組。
緊張の面持ちで待つこと10分。
峰岸家の番が回ってきた。
「どうぞ、お入りください。」
中に入ると、園長先生と思しき男性と、見学の時に案内してくれた女性の先生がいた。
ひらりを真ん中に、両脇に夫と私が座る。
試験がはじまるぞ、頑張れひらり!
2歳でも空気をよむ
まずは先生方から挨拶をしてくれた。
やはり男性は園長先生だった。
ひらりは少し緊張していたようだけど、先生方がにこにこしてくれるので落ち着いたようだ。
「それでは始めますね。まずはお名前を教えてください。」
(き、きたぁぁ。ひらり練習の成果を発揮するのよー!)
一瞬モジモジして、私と夫をみるひらり。
「・・・みねぎし・・・」
(もしかして珍回答をする気では?!)
「・・・ひらりです!」
(ヨシッ!)
一時はどうなるかと思っていたので、ちゃんと言えて本当にほっとした。
まじめに答えなきゃまずい、ひらりもそんな雰囲気を察したのだろう。
最大の難関は越えたと思ったものの。
今度はテーブルの上に積み木を3つ置かれた。
(・・・にゃんですと!それで何を・・・!?)
あっさりできた
ちょっとした会話の練習とか、物の名前とかは少しやったけど・・・。
積み木は何に使うんだろう?
「赤はどれですか?」
ひらりはスッと指を指す。
(そうそう、それ赤だね。)
同様に黄色と青も聞かれる。
問題なく、ひらりはスッと指を指す。
なんでそんなこと聞くの?って顔してる。
「それじゃあ、赤の上に黄色を乗せてくれますか?」
トン、トン、とひらりは積み木を重ねる。
それから?という顔を先生に向ける。
「はい、じゃあいいですよ。合否は後日連絡します。」
予想してたより、あっさりと試験は終わった。
要するに、幼稚園で先生のお話を聞いて分かるかどうか、生活していけるかどうかを確かめる試験だった、そう感じた。
たぶん合格してると思うんだけど・・・。
でもどうかな?
定員に達してたら入れないとかあるのかも。
4月から幼稚園
入園願書の中に封筒が入っていて、切手を貼って自分の住所を書くようになっていた。
あれで合否通知がくるのだろう。
毎日ドキドキしながらポストをみた。
今からだと別の幼稚園は間に合わないし、保育園に行けても4月からは無理かも・・・。
万が一落ちていた場合のことも考えて、そわそわしていした。
少し日がたつと、ドキドキ感もだいぶ薄れてきた。
何の気なしにポストをみると。
届いていた。
封筒が。
・・・こ、これはもしや!!
今度は準備で忙しい
どうか合格してますように、と祈りながら封を切る。
封筒の中から折りたたまれた紙を取り出す。
「合格通知」
やったー、合格してたー!
「ひーちゃん、ひーちゃーん、4月から幼稚園いけるよー!」
「お?!いけるの~」
2人で大いに喜んだ。
仕事から帰ってきた夫にも合格を伝えたら、「だろ~?合格すると思ってた。」とか余裕ぶった発言が返ってきた。
ただ顔は嬉しそうにとろけているので、めっちゃ喜んでるんだと思う。
封筒が届いた翌日、合格通知をもって手続きに行った。
そこで渡された封筒には、教材費や制服の試着&注文日、保育料の支払い方など、具体的な内容が書かれた書類がたくさん入っていた。
こ、これは忙しくなりそう。
特にアレ。
幼稚園で使う袋物。
こちらの幼稚園でもやはり必要なようだ。
これから春までのスケジュールが、一気に入ってきた。
私は思いがけず忙しくなって、ご近所ママうんぬんどころではなくなっていた。