ママ友いじめから知った人生で大切なこと
私の体験が少しの希望になることを願って
回想

55.仲間外れや嫌がらせは日常茶飯事。隣家の年上女子がボス

 

私が祖母の家に預けられてから。

「母子家庭」の子だからと意地悪をしてきたのは、隣家の女子だった。

 

その子は私より2学年上で、2人姉妹の下の子。

名前を「ひでこちゃん」といった。

 

はじめはひでこちゃんも、人見知り的な感じをさせながら普通に接してくれていた。

1年くらい経って、私にお父さんがいないと確信するや否やどんどん態度が変わっていった。

 

ひでこちゃんちの裏に住む「ともちゃん」(ひでこちゃんと同級生)とよく2人でつるんでは、色々としてくるようになった。

 

特に困っていたのは。

ともちゃんの飼い犬である「ケン」を、私に向かって吠えさせること。

 

ケンはオスで、近所でも有名なよく吠える犬だった。

あまりに吠えるので口元にキャップのような口輪をしていることもあった。

 

そのケンを私の前に連れてきて吠えさせるのだ。

 

至近距離まで犬を近づけて吠えさせる。

壁に追い詰められた私は、ケンにワンワンギャンギャン吠えられ続けて震えてしまった。

お散歩ロープをピンピンに張って、今にも飛び掛かりそうな体勢でケンは吠える。

もし噛まれでもしたらどうするつもりだったんだろう?

 

体を硬直させて怖がっている私を見て、ゲラゲラと大笑いする2人。

 

ケンが吠えまくっているのを聞きつけたともちゃんのママがやってきて、2人を注意した。

それで収まるかと思ったらそうでもなかった。

今度は散歩の途中だと言って、通りすがりを装って吠えさせてくるようになった。

 

結局最後は。

無駄吠え防止の口輪を外せるのはともちゃんのママだけとなり、散歩中でもケンは口輪をつけたままになった。

 

私にしてみたら。

もちろんケンも怖かったけど。

怖がって震える私をみて大喜びしている2人が、もっと怖かった。

何が面白いのかさっぱり理解できなかった。

ただ、この子たちは意地が悪いんだなってことだけはよくわかった。

 

エンドレス鬼ごっこ

ひでこちゃんは「一緒に遊ぼう」と玄関のチャイムを押して呼びかけ、誘ってくる。

嫌な予感がするから断りたいと一瞬思うんだけど。

私もまだ子供で遊びたいという気持ちがあったのと、断れる理由がないから誘われるままに外にでてしまう。

 

するとやっぱり。

その誘いは、純粋に「遊ぼう」という誘いでなかった。

 

鬼ごっこで私をずっと鬼にしておく。

私をずっと鬼にしておいて楽しむために誘いに来ていた。

ルールはあって無いようなもの

近所の子ども達で集まって遊ぶことがよくあった。

あの時代は子どもが多かったから、ちょっと声をかければ10人弱はすぐに集まった。

 

私は足が速かったので、鬼ごっこで相手を捕まえるのは苦ではなかった。

だけどそこにひでこちゃんがいると話が違う。

 

「タッチ!○○ちゃん捕まえた!」

私が鬼で誰かを捕まえると、ひでこちゃんがでてきてこう言う。

「あ、今の練習だからナシで。」

 

私に鬼を続けさせる理由はいくらでも出てきた。

「その子は『おまめさん』だからだめ。」

おまめさんっていうのは、特別ルールで鬼にできない子のことね。

 

他にもこんな感じ。

「タッチするときは手のひら全体じゃなきゃダメ」

「タッチが痛かったって言ってるからやり直し」

 

ひでこちゃんはルールを捻じ曲げる。

というより、ルールはあって無いようなものだった。

 

私を鬼にして楽しみたい。

必死になる姿、鬼をやり続けて困る姿、意地になって走る姿。

そんな私を見たいというひでこちゃんの思いを感じた。

 

結局のところ、ひでこちゃんは私と一緒に遊びたいわけじゃなかった。

私を鬼にし続けることで、自分の優位を感じたかったんだと思う。

びっちり習い事で埋める

私がエンドレスで鬼になる鬼ごっこは、ひでこちゃんが入ってくると始まる。

みんなも自分が鬼をやるのは嫌だから、ひでこちゃんに逆らわない。

 

いつまで経っても鬼をさせられるので。

最後はひでこちゃんを徹底的に狙う。

他の子は無視。

ひでこちゃんだけ追いかける。

 

2学年上だけど、本気で追いかければ捕まえられた。

 

もちろん捕まったひでこちゃんは「残念だったねぇ。今さっき鬼ごっこは終わりになったんだぁ。はい、おしまい!」とか言って鬼になるのを逃げる。

私も子供だしムキになってるから「ああそう?私に捕まったのがくやしくてそう言うんだよね?知ってるよ。」とか言い返しちゃう。

 

んで結局ひでこちゃんは私以外の子どもを連れてどこかへ行ってしまい、私は一人取り残される。

そんなこんなで、仲間外れなんかは日常茶飯事だった。

 

それを見かねた祖母が、遊びに誘われても断れるように。

月から土までびっちり習い事を入れた。

毎日何かしらの習い事があるおかげで、ひでこちゃんと遊ぶ機会はずいぶんと減った。

 

祖母はちゃんと見ていたし、知っていた。

子ども同士に口をだすことはなかった。

だけど陰ながら私を助けようと、考えてくれていた。

 

ちゃっかり利用はする

隣近所の子とギクシャクし続けるわけにもいかない。

みんなと仲良くなれるように、祖母は色々と策を練ってくれたんだと思う。

 

そのひとつが「プール」だった。

 

夏休みになったら、私が1人で入るには大きすぎるプールを用意してくれた。

車1台分の駐車スペースいっぱいの、大きな丸いプール。

空気を入れるタイプじゃなくて、水圧で形が維持できるやつ。

 

子どもが5人入ってもまだ余裕があるくらい大きかった。

 

隣家からそのプールはよく見えたんだろう。

普段は意地悪をしているひでこちゃんが、プールに入りたそうに近寄ってきた。

 

よっぽどプールが魅力的だったんだろう。

威圧的なひでこちゃんがしおらしい様子で「いいなぁ、一緒に入りたい。」とか言った。

善人面でプールに入る

祖母はこれを狙ってたんだと思う。

ひでこちゃんと仲良くなれれば色々な問題が解決すると考えたんだろう。

 

夏休みの間、ひでこちゃんもご近所の子もみんなでプールに入るようになった。

祖母がちょうど良い頃合いでおやつを持ってきてくれる。

 

みんな祖母の前では良い子で「ありがとうございます」と礼儀正しくしていた。

ウチのプールでお世話になっている間は、ひでこちゃんも意地悪をしてこなかった。

 

こうやって徐々に仲良くなれればいいなぁと思っていたけど。

結局夏が終われば元通りだった。

 

利用できる時は利用して。

用が済んだらサヨナラだった。

 

ひでこちゃんは一緒にプールに入ったことも、一緒におやつを食べたことも忘れていまったようだ。

母子家庭の子だから、とバカにするのをやめてくれなかった。

 

ぶち切れてバイオレンス

比較的仲の良かったお向かいの「まきこちゃん」と、まきこちゃん家のお庭で遊んでいた。

まきこちゃんは私より2学年下で、その当時は幼稚園だった。

 

まきこちゃんちのお庭で砂遊びをしていたら、ひでこちゃんが仲間を引き連れてやってきた。

砂遊びをしているし、まきこちゃんと遊んでるから。

そう言ってるのに、しつこく何度も「高鬼をしよう」と誘ってくる。

 

どうせまた私が鬼をやり続けるのは分かってるから、断った。

 

埒が明かないと思ったのか、今度はまきこちゃんに「高鬼をしよう」と声をかけた。

まきこちゃんはすんなりOKしてしまった。

 

高鬼はやりたくないし、帰ろうかなと思ったら。

 

ここはまきこちゃんの家でまきこちゃんの庭で遊んでいたんだから、まきこちゃんと一緒に高鬼をしなきゃいけないんだ、などと強引な理由を付けられて。

家に帰れないように周りを数人に囲まれて。

私は半強制的に高鬼に参加することになった。

窮鼠猫を噛む

まずもってジャンケンの段階からイカサマだった。

私が負けるまで何度もやり直しが続いた。

 

やっぱり今日も鬼をやらせるのね。

 

どんなに真面目にやっても、ひでこちゃんが無効にして鬼になり続けるのは分かっていたので、最初からひでこちゃんを狙った。

高い所に上がっているひでこちゃんの前を1歩も動かなかった。

 

こうなることを予想していたのか、一歩も動かない私に石を投げる子が現れた。

その子を確認しようと目を離した隙に。

私はひでこちゃんに蹴られた。

 

背中を思いっきり。

 

息が詰まりながら倒れて、花壇のブロックで膝を豪快に擦りむいてしまった。

ひざからはダラダラと血が流れている。

 

痛いし血が出てるしで手当てが必要。

私は家に帰ると言った。

 

するとひでこちゃんは「鬼は帰っちゃだめ」とか言ってくる。

 

さすがにそれに従う訳にいかない状況だったので、無視して家に帰ろうとしたら。

ひでこちゃんと仲間数人に囲まれた。

 

「ちょっと。帰るなって言ってるでしょ?あんた私のいう事聞けないの?」

「こんなに血が出てるし、一度帰るよ。」

「そんなのどうでもいい。帰るなんて許さない。」

 

そう言ってひでこちゃんは私に顔を近づけて睨み、二の腕をこれでもかとつねってきた。

 

私は覚悟を決めた。

こんな奴らに付き合ってられない。

 

ひでこちゃんの手を振りほどき、ひでこちゃんの顔にパンチを入れた。

グーで。

 

髪をつかんで引っ張り、私に向かって出された手に噛みつき、頭突きをし、まきこちゃんちの生垣にひでこちゃんを押し付けた。

押し付けて、髪をつかんだまま何度も蹴った。

蹴ってるうちにひでこちゃんの体が沈んでいったので、そこを何度も足で踏みつけて。

仕上げに、体重をかけてひでこちゃんのお腹にヒザを落とした。

 

ひでこちゃんは泣いていた。

顔を涙でぐちょぐちょにして泣いていた。

 

周りの子は私の剣幕に気圧されて、動くことすらできなかったようだ。

 

窮鼠猫を噛む。

弱い物いじめはたいがいにしろ!

私は「フン!」と鼻息を吐いてその場を去った。

改心するわけがない

こう言ったら申し訳ないけど。

ひでこちゃんを泣かせて。

私は胸がすっとしていた。

 

これまでのことを思えば、これで済んで軽かったと思って欲しい。

 

両親がいて姉がいる、ごく普通の家庭に育っている子が「ひでこちゃん」みたいな子だとしたら。

普通って大したことないじゃんって思った。

 

自分は普通だから正しい。

みんなが同じだから正しい。

多数派だから正しい。

 

それのどこが素敵だっていうんだろう。

人の痛みがわからない人間になっちゃうなら、普通っておかしいんじゃない?

 

父親もいない、母親にも会えない。

普通じゃなくて色々足りない私の方が、よっぽどまともな人間に思えた。

 

そうはいっても。

泣かされたひでこちゃんがこれで改心なんてするわけなかった。

 

いつもバカにしていた相手に負けて、さぞかし悔しかったんだろう。

わかりやすい意地悪は少なくなるけど、そのかわり。

陰湿ないじめに移行していった。

ただそれだけだった。