回想でふれたように、私は小学6年生までの間に様々な偏見やいじめを体験した。
だからこそ思う。
大人になってまでこんな不毛なことをやってるなんて思わなかった、と。
まるで再度小学校に入学しなおした気分だ。
確かに。
あの頃の同級生が親になっている世代。
いじめに興じていた子ども達が。
あの頃のままあまり成長していないと考えれば、モンスターペアレンツやママ友いじめも、そりゃああるだろうって納得できちゃうね。
ただママ友いじめが、これまで経験してきたいじめと違って怖いのは。
まだ幼い我が子が巻き込まれることだ。
自分がやられているぶんにはまだ何とかなる。
もう大人なので、教室と言う密室にいるわけでもない。
お付き合いする相手も自分で選ぶことができる。
だけど。
子どもを巻き込まれるのはどうしても辛い。
自分のこと以上に心配だし、自分の事以上に心が痛む。
そしてそのことを、ママ友いじめをやる側もよく知っている。
私を思い通りに傷つけきれなかった三津屋さんの矛先が。
娘であるひらりに向いていったのは必然だったんだと思う。
何を聞いたか知らないが
偶数学年では基本クラス替えがないので、そのまま持ち上がりで2年生になった。
その頃くらいから、気がついたことがあった。
最初は小学1年生の夏休みが終わった頃。
これまで仲良くしてきた「村瀬さん」から、連絡がぱったりとこなくなった。
万理華ちゃんがしっかりしたから、連絡帳の確認が必要なくなったかなと思ってた。
近づいてこなくなったな、とも思ってた。
それでもあまり気にしていなかったんだけど、1年生の終わり頃の授業参観で「お久しぶり」と声をかけてみたら。
ちらりと私をみて、村瀬さんはものすごく気まずそうな顔をして「どうも。」と言った。
あれ、やっぱり何か変だなと思った。
2年生になると。
ついに村瀬さんは私を無視するようになった。
挨拶してもスッと顔を背けていなくなってしまう。
一体私が何をしたというのか。
全く心当たりがない。
子ども絡み?
でもひらりは万理華ちゃんともめたなんて言ってなかったけどな。
と言うか。
村瀬さんってこういう人だったんだなって思った。
こういうことができる人だったんだな、って思った。
私を避けるメリット
村瀬さんはこの住宅街と同じ方角ではあるけど、別の住宅街に住んでいる。
なのでご近所ママ友という括りには入っていない。
だから、ご近所ママ友の流れでなにかを吹き込まれたとは考えにくい。
一体何が起きているのだろう?
入学してから半年は普通にお付き合いしていたのに。
1年生の半ば頃から村瀬さんの様子が変わって。
その頃はちょうど、細貝家が大暴れしていた時期。
三津屋さんが本格的に動き出したと感じた時期と重なる。
三津屋さんと、村瀬さんの接点。
どこだ?
そうだ、学童だ。
学童保育で村瀬さんと三津屋さんは一緒のはず。
そういえば運動会のとき、話し込んでいた見知らぬママさん達も。
学童保育に行っている、同学年女子のママさん達だった。
あれほど打ち解けていた村瀬さんの様子がここまで変わったということは。
なにか相当よからぬ展開になっている気がする。
村瀬さんにしてみたら。
私とお付き合いするのは危険で、無視するほうがメリットがあったのだろう。
何を聞いたか知らないけど。
事情があったのかもしれないけど。
自分に被害が及ばないように、事なかれ主義で周りの様子をみながら合わせるというのは。
一見すると賢くて大人な対応に思えるけど、全然違うと思う。
本当に賢くて大人なら、悪口を言う輩とは速攻距離を置くべきだ。
相手に気付かれないようにそっと。
悪口でまとまる集団には、安心も安全も信頼もない。
ただ自分の身を守れればそれでいいという打算だけしかないのだから。
実行役と補佐役
ひらりのクラスでも困ったことがおきはじめた。
1年生の後半から。
ひらりが麻未ちゃんと仲良くしていると誰かしらがやってきて、麻未ちゃんを連れ去ってしまうのというのが頻繁におこっていた。
それに加えて2年生になったら。
ひらりに物を投げてきたり何かと絡んでくる子が現れた。
その子達は2人組で、それを先生が見ていない所でやるし、ひらりが付きまとわれてストレスを感じるほどしつこかった。
やることなすこと、一挙手一投足を見ていて。
「あー、なにそれ!?」とか「うわー、やだー」とか逐一批判してくる。
そしてひらりが後ろを向いている時に限って、丸めた紙やちぎった消しゴムを投げてくる。
やめてと言って振り向くと、2人は知らんぷりをして「何のこと?」と言うそうだ。
そして詳しく話を聞いてみたら、この2人も学童に行っている子だった。
ひらりと仲良くしようという気が全く感じられなかったし、それどころか揚げ足をとって貶めようという意図が感じられた。
この子達の悪意はどこからくるんだろう。
1年生の頃はそこまで関りが無かった子達なので。
2年生になって変なかかわり方をしてくるようになって。
やっぱり学童で何かが起こっていると感じざるを得なかった。
先生にバレない仕組み
そうこうしているうちに困ったことになった。
ひらりが学校で暴力を振るわれていた。
その相手はもちろんあの2人組。
ひらりが後ろを向いている時に、背中を蹴るそうだ。
転びそうになって1・2歩よろけた後、後ろを振り返ると2人組がいる。
「どうして蹴るの?」
「蹴る?なんのこと?」
2人してしらばっくれるけど、ひらりの後ろにはその2人しかいないのだから、誰が蹴ったかは明白だ。
そんなことが数回あったので、もう偶然とか間違いじゃなくて故意だと思い、ひらりは先生に言いに行った。
すると。
先生:「Aさん、ひらりさんのことを蹴ったんですか?」
Aさん:「いえ、蹴ってません。手に持っていたものがぶつかっただけで、足ではないです。」
先生:「本当ですか?」
Bさん:「はい。私もみてましたから蹴ってません。ひらりさんの気のせいです。」
なるほどね。
いつも2人組の理由がわかった。
この2人の役割分担は。
1人が実行役で、もう片方が口裏合わせのための補佐役だった。
こうやってひらりは暴力を振るわれてもうやむやにされて。
どんどん教室へ行くのが怖くなっていった。
先生への伝え方
ある日の朝、ひらりは学校へ行きたくないと言った。
怖いから。
やはりこれは由々しき事態だと思い、私からも先生に相談することにした。
電話だとお時間をとらせてしまう。
連絡帳に書くには長すぎる。
そこで便せんに書き、ひらりに持たせることにした。
気を遣ったつもりだったけど、かえって先生を驚かせてしまったらしい。
その日の昼休みに、先生から家に電話があった。
教室に行きたくないとまで思っていること。
先生に言っても、子どもが何事もなかったと口裏を合わせていること。
物をぶつけられていた時から暴力に移行してエスカレートしてきていること。
それを私の言葉で伝えた。
先生はとても迷っているようだった。
ひらりの言い分と、2人組の言い分が違うから。
何が本当なのか見極められないでいるようだった。
とりあえずもう一度、2人組に話を聞いてみますとなって電話は切れた。
謝っておけばいいだろうという顔
ひらりの連絡帳に、先生からのメッセージが書いてあった。
「都合がつくようであれば、明日の下校時間(帰りの会が終わったころ)教室までご足労願えないでしょうか。」と、あった。
その日はひらりを学校にお迎えに行く日なので、その足で教室まで行くことにした。
教室にはひらりと先生と例の2人組がいた。
蹴ったという事実は確認できなかったけど、ひらりさんが嫌な思いをしていたので謝りましょうという趣旨の集まりだった。
2人は先生の前ではしゅんとした様子だったけど。
私に向き直った時に表情を変えた。
あからさまな嘲笑の顔つきにくわえ、謝っておけば文句ないよねとでも言いたそうな態度だった。
「ひらりちゃんのことで、心配させてしまってごめんなさぁ~い。」
2人は声をそろえてそう言った。
先生に見せていた顔とのギャップに面くらいながらも。
相手はまだ小学2年生なのだからと、思い直した。
「うん、ありがとう。これからひらりと仲良くしてもらえると嬉しいです。」
これでその場は終わった。
先生と保護者である私を巻き込んだ、この「蹴り」事件は。
何が事実だったかははっきりしないまま、話が大きくなったのでこれ以上やらない方が良いとなったらしい。
2人による付きまといは無くならなかったけど、とりあえず暴力は無くなった。
一応の解決にはなったものの。
先生への伝え方って難しいなって思った。
結局のところ「証拠」がないと話が先に進まない。
あとは、親が出るタイミング。
子ども同士で解決するチャンスも設けないと、多分即モンスターペアレンツ扱いされてしまうだろう。
今回の子ども達の様子をみて、私は更に確信を深めた。
学童でなにか起こっている。
それは恐らく親のなかで広がって。
子ども達にまで伝染しているように感じられた。
だけど。
それを軽々しく口にすることはできない。
状況から鑑みての憶測だし、それを示す証拠がない。
悪口や企みは、人の口から口を通って繋がり広がっていく。
まるで悪意が伝染していってるようだ。
そしてそこには証拠らしい証拠がない。
自分がターゲットにならなければ、それはちょっとした娯楽にすら思えるのかもしれない。
だけど、ちゃんとした大人で、親だというのなら。
こんな風に伝染する悪意に、振り回されていてはいけないと思う。