2年生になっても、ひらりと麻未ちゃんは仲良くお付き合いをしていた。
私が車でお迎えに行く日は、麻未ちゃんも一緒に乗って家まで送ることもあった。
もちろん、麻未ちゃんママの了承のもとで。
学校では変わらず。
麻未ちゃんとひらりが一緒にいると、誰かがやってきて麻未ちゃんを連れ去ってしまう。
桃亜ちゃんがそれをする場合が多かったが、近頃は村瀬万理華ちゃんも参戦しているらしい。
麻未ちゃんとひらりは、急に連れていかれないように。
学校内で移動する時は手をつなぐことにしたらしい。
すると。
その繋いでいる手の部分を上からチョップして、痛がっているすきに連れていくとか。
繋いでいる手の指を無理やりこじ開けて、離させて連れていくとか。
かなり強引なやり方をされるようになった。
麻未ちゃんは「こんなことやめて。私はひらりちゃんとも仲良くしたい。」とその都度言ってくれているそうだが。
彼女達は「麻未ちゃんは、私たちの友達だから。」と言ってきかないそうだ。
自分の意思を全く尊重してくれない人が、果たして本当に友達なのだろうか。
この強引でしつこい引き離し方に、私は少し嫌な予感を感じていた。
私が小学生だった頃にも、こんな風に仲を引き裂かれたっけ。
もしも。
もしも仲を引き裂くのが目的なら、次にくるのは双方にそれらしい嘘話を吹き込むことだろう。
ひらりと麻未ちゃんは、お互いを好いている。
だからといって2人だけの世界を作りたいと思う子達ではない。
みんなと仲良くしたいと思っている子達だ。
だからこそ、こんな事しないでほしい。
みんなで仲良く学校生活を送って欲しい。
私は心からそう思っていた。
学童を辞めた子
2年生になって数カ月したころ。
麻未ちゃんとひらりの関係にも変化があった。
これまでは2人で学校から帰宅してきたけど、近頃は3人になっている。
内藤かんなちゃんという子が一緒に帰宅するようになった。
家の方向が一緒で、ぞうさん公園の手前くらいにお家があるそうだ。
彼女はつい先日、学童保育を辞めたばかりの子。
お母さんが出産のために仕事を辞めたので、学童もやめたらしい。
3人で歩いて帰宅することもあれば、私の車に一緒に乗って帰ることもあった。
ひらりとも仲良くしてくれているようだったし、ひらりもかんなちゃんに対して好意的だった。
学童を辞めたばかりだと聞いて。
何か変な噂を吹き込まれてる可能性もあると思って様子をみていたけど。
今のところ、かんなちゃんからはそんな素振りは感じられない。
学童に関わっている親子の様子がおかしいけど、もしかして全部じゃないのかな。
様子がおかしいのは一部だけなのかな。
よっぽどおかしな話になってる雰囲気だったけど、それもわたしの勘違いかな。
それならそれで良い事だよね。
引き離しに来なくなった
それと同時にちょっと不思議な変化もあった。
かんなちゃん・麻未ちゃん・ひらりの3人で帰宅するようになって。
学校でも3人でいる機会が増えた。
これまでは、あれ程麻未ちゃんを連れ去っていた女子数名が。
かんなちゃんが入ったことによって気が済んだのか、ひらりと麻未ちゃんを引き離しに来なくなったそうだ。
ということは。
2人で仲良くしていたのが気に入らなかったのかな?
3人ならOKになるのは、理屈がわからなくて。
それはそれでなんだか不思議。
ただ、かんなちゃんが一緒になったおかげで。
ひらりの学校でのお悩みが1つ減って良かったなと思った。
口うるさい2人組につきまとわれてもいたし、暴力をふるわれたこともあってすごく心配していたけど。
こうやって1つずつ変化して、ひらりを取り巻く環境が良くなっていったらいいなと思っていた。
仲が良さそうにみえても
かんなちゃんは最近、放課後うちにも遊びにくるようになった。
外で遊ぶのが好きな活発な子のようで、自転車でうちまで来て3人で宿題をしたあとは、近くの公園に行くことが多かった。
おやつを持って行って公園で食べたり。
楽しく遊び過ぎて約束の時間を過ぎていることもあった。
幼稚園仲間だった、風華ちゃんと美鈴ちゃんと疎遠になってしまった今。
こうやってまた新しいお友達ができたことが嬉しかった。
やっぱり子ども同士だもん。
楽しく遊んで、もっと仲良くなっていけたらいいよね。
2人の距離感
ただ。
ある時公園まで3人を迎えに行ったときに、気になる光景をみた。
約束の17時を過ぎても戻ってこないので、私は公園までお迎えに行った。
すると。
3人で遊んではいるものの、麻未ちゃんとかんなちゃんが2人でくっついて座っていて。
ひらりは1人で離れたところにいた。
3人で一緒に遊んでいるのに、ひらりが1人になっていたのが少し気になった。
後でひらりに聞いてみたところ。
それはたまたまそうなっていただけで、何も問題ないと言った。
だけど。
家で宿題をしている時も、また別の日に公園にお迎えに行った時も。
何というか、かんなちゃんの距離感が。
ひらりと麻未ちゃん、2人に対して同じような付き合い方をしている、というよりは。
ひらりよりも麻未ちゃんとの距離が近いようにみえたし、麻未ちゃんの方を重視しているようにみえてしまった。
だけどそれは仕方なかったのかもしれない。
ひらりは習い事があるので、そこまで放課後一緒にいられない。
麻未ちゃんとかんなちゃんは、ひらりが不在の時に2人で遊ぶこともよくあったみたいだし。
ひらりよりも、麻未ちゃんとかんなちゃんの距離が縮まるのは。
当然と言えば当然だったと思う。
私をみる目つき
かんなちゃんはいつも自転車にのって遊びに来る。
なので、帰りはそのまま玄関先でバイバイして見送るんだけど。
その日はたまたま雨で、徒歩で遊びにきていた。
帰り道、子ども1人で歩いて帰らせるわけにはいなないので、私は車でかんなちゃんを家まで送っていくことにした。
かんなちゃんと麻未ちゃんとひらりを乗せて、内藤家に向かって出発した。
内藤家に着くと、そこで初めてかんなちゃんママに会った。
初めてというか。
お姿を見かけたことはあるけど、ちゃんとご挨拶するのが初めてということね。
すると。
かんなちゃんママは一瞬、私を上から下まで眺め品定めするような視線を向けて。
(ああ、これが例の峰岸か)という副音声が聞こえるかのような顔をした。
だけどそれは一瞬で。
すぐににこやかな顔になり「送って頂いたんですね、ありがとうございました。」と言った。
かんなちゃんを送りにきただけなので、かんなちゃんを家の前で降ろして帰ろうと思っていたら。
3人とも一緒に車を降りてしまった。
しばらく内藤家の玄関先を3人で走り回っていたんだけど。
かんなちゃんママは麻未ちゃんと面識があるせいか、麻未ちゃんには進んで声をかけたりにこやかな顔をむけている。
だけど、ひらりには見向きもしなかった。
見向きもしないだけなら、まだいい。
あえてひらりに注意を向けないといったような、冷たさがそこには感じられた。
もしかしたら、この先内藤家にお邪魔することがあるかもしれない。
だけどなんか。
ひらりに対してこういう感じだと、なんか心配だなって思ってしまった。
隠しきれてない感情
あまり遅くなるわけにはいかないので、駆け回っている麻未ちゃんとひらりを説得して、再び車にのせた。
「かんなちゃん、また明日ね!」そう言って2人は手を振る。
「また明日~!」
そう言って手を振るかんなちゃんの横で。
私に対して。
胡散臭いとでも言いたげなジトっとした目を向けてきている、かんなちゃんママに気がついてしまった。
目があった瞬間に「マズイ」と思ったのか、かんなちゃんママは瞬時に表情を笑顔にすり替えた。
そうか。
やっぱりそうなんだね。
学童では何か私に関してよからぬ情報が出回ってるんだね。
それを内藤さんも信じているんだね?
その後何度か、かんなちゃんがうちに遊びに来ることがあったので、それとなく様子をみていた。
すると。
私と麻未ちゃんが話をすると、その横でかんなちゃんが「胡散臭い」とか「うざい」いう顔でこちらをチラチラみていることに気がついた。
かんなちゃんも、かんなちゃんママも。
私に気がつかれなければいい、分からないようにすればいいと思っているかもしれないが。
人の気持ちってどこかにでるものだ。
私に対してどんな気持ちをもっているのか。
いくら隠そうとしたって、隠しきれない感情が。
目つきや顔つきに確実に現れていた。
もしかしたら。
このタイミングでかんなちゃんと一緒に帰るようになったのも、なにか意図があっての事かもしれない。
お友達ができたと思って喜んでいたけど、違ったのかもしれない。
やっぱり内藤家は、学童で流れる悪い噂に染まっているように見えた。
少しづつ忍び寄る足音のような予感。
やっぱり内藤家も、三津屋さんとつながっているのかもしれない。
そんな気がしていた。