小学2年生の半ばにして。
麻未ちゃんと疎遠になることで、ひらりには近所の友人もいなくなった。
ここ最近一緒に遊んでいた「かんなちゃん」も。
麻未ちゃんがひらりと離れ、学童の子を友人に選んだことで。
ひらりには全く関心がなくなったようだ。
それどころか。
他の学童の子ども達と一緒に、ひらりを冷たくあしらったり嫌悪感の籠った視線を投げたりしてくるらしい。
かんなちゃんはやっぱり。
ひらりと友人になりたかったわけじゃなかった。
ただ麻未ちゃんとひらりを引き離したくて。
それで一緒に行動してたんだと思う。
かんなちゃんと仲良くなった時、桃亜ちゃんの対応が変った。
桃亜ちゃんや万理華ちゃんが、無理やり麻未ちゃんを連れて行かなくなった。
その理由が分かった気がする。
初めから。
初めからかんなちゃんが2人の仲を壊す予定だったから。
だから桃亜ちゃんは介入してこなかっただけだ。
そして、そんな汚い計画を立てたのは。
言わなくてもわかる、あの人なんだと感じていた。
家が遠いお友達
家が近いにも関わらず、ご近所の子ども達とは疎遠になってしまった。
私はそれが。
ママ友いじめが発端だと知っていたから、ひらりに申し訳ないと思っていた。
私が三津屋さんと仲良くならなければ。
最初から今まで、ただのお隣さんでいられたら。
だけどそれは無理だっただろうとも思う。
同じ学年、同じ性別、家が隣。
必ずどこかで関わっていたし、こうなっていたと思う。
ということは。
私はきっと。
いや私もひらりも。
この状況から何かを学ぶ、そういう事なんだろうと思う。
憎しみや悲しみに心をつかまれないようにしながら。
私とひらりは、このいじめの荒波を泳いでいかなければならない。
学区の端と端
それでもひらりはめげなかった。
教室には色々な子がいる。
家が近くなくて学童に行っていない子のなかに、ひらりと気の合う子がいたようだ。
家は真逆の位置にあって、学区の端と端。
遊びに行くと言われたら、車で送迎しないと遊ぶ時間がなくなるくらい遠かった。
最近親しくなったお友達は「沢田良子ちゃん」といって、さっぱりした気質の賢そうな子だった。
良子ちゃんは、ご近所絡みでもなければ学童の影響も受けていない。
教室にいてもひらりと普通に友人として接してくれていた。
家が遠いので車での送迎が必須。
月に1~2度くらいしか遊べないけど、それでも健気に互いの家を行き来して仲良くしていた。
良子ちゃんと遊ぶと。
毎回新しい発見があるようで、ひらりは目をキラキラさせて「楽しかった!」と言う。
良子ちゃんもいつも。
必ず「また遊ぼうね」と言ってくれる。
ひらりは麻未ちゃんとのことを乗り越えて、自分なりの新しい道を歩いている。
ご近所を従えた三津屋さん。
学童保育の同学年女子ママを掌握した三津屋さん。
さすがにこれでもう、満足だよね?
これ以上はもう、ないよね?
誰と仲が良いか見られている
子ども同士の仲が深まると、自ずと親同士もご縁ができる。
ある日の授業参観で、私は沢田良子ちゃんのママに声をかけられた。
良子ちゃんのお家はおじいちゃんおばあちゃんが同居しいていて、パパさんママさんはフルで働いている。
なので良子ちゃんの家に送迎に行っても、良子ちゃんママに会ったことがなかった。
お見かけしたことはあるものの。
声をかけられて初めて、良子ちゃんママだと知った。
「こんにちは、沢田です。いつも仲良くして頂いてありがとうございます。」
「こんにちは、峰岸です。こちらこそ、いつもありがとうございます。」
こんな始まり方をして、少し話が弾んで。
良子ちゃんママは。
やっぱり良子ちゃんのママらしい、さっぱりして爽やかな雰囲気の人だった。
少しお話させてもらっただけだったけど、とても好感の持てるママさんだった。
感じる視線
ただ。
良子ちゃんママとお話ししているときに、少し気になったことがあった。
話の最中にふと視線を感じて目をやると。
なんとそこに三津屋さんがいた。
私達は教室のなかでお話をしていたんだけど。
三津屋さんの視線は廊下から飛んできていた。
私は目の端でそれを捉えた。
私が気がついたことに気がついたのか、三津屋さんはすぐその場からいなくなったけど。
確実に見られていたと感じた。
あの一瞬の視線にはぞっとした。
何かの黒い塊をぶつけられたような。
どろっとしたものを貼り付けられたような。
何とも言えない薄黒い視線だった。
そういえばと思いだす。
細貝美鈴ちゃんがよくウチに遊びに来ていた頃。
車でお迎えに来ていた細貝さんを。
三津屋さんが駐車場からチラチラと見ていたっけ。
もしかして。
私が誰と仲良くしているか、見られてるのかな?
思い当たる節があるから、かえって怖い。
自分の感じた「見られている」という感覚が、ただの勘違いじゃない気がして。
そうなると次に狙われるのは「沢田さん」?
沢田さんと私が仲良くならないように仕向けるつもり??
そうすれば自然と子ども同士も離れるだろうしね・・・。
まさか。
まさか、そんな、ね?
母伝いで操作しようとする
2年生も終わりに近づいた頃。
ひらりがこう言った。
最近良子ちゃんとお話しできなくなった、と。
詳しく話を聞いたら。
良子ちゃんとひらりが一緒にいると、クラスの学童の子達がやってきて良子ちゃんを連れて行ってしまうそうだ。
ああ・・・。
それって麻未ちゃんを彷彿とさせる出来事。
だから良子ちゃんとなかなかお話ができない、とひらりは言っていた。
麻未ちゃんの次は良子ちゃん?!
ひらりは誰かと仲良くなったらいけないの?
それから少しして。
良子ちゃんの態度が冷たくなったと言った。
ひらりをバカにするようなことも言うようになったと言った。
おそらくだけど。
おそらく良子ちゃんは、学童の子達に連れて行かれて。
あちらの側に行ってしまったんだと思う。
よくよく聞いてみると。
良子ちゃんが朝一緒に通学してるのは、ひらりにつきまとって暴力を振るっていたAちゃんだったし。
保育園からのつながりで、良子ちゃんは学童の子達とも面識があった。
だけど、それだけが原因じゃなかったんだと知る。
それは学年最後の授業参観だった。
悪口で狙い撃つ
2年生最後の授業参観に行って。
良子ちゃんママを見かけた。
私の方から声をかけてみると。
良子ちゃんママがびっくりした顔のあとに、目を伏せて。
私に話しかけられたくない、話しかけられて困ったという顔をした。
そうか。
やっぱりそうだったんだね。
三津屋さんは私と沢田さんの関係を見ていた。
桃亜ちゃんを通して、子ども同士が仲が良いのも知っただろう。
結局のところ。
ご近所じゃなくても、学童じゃなくても。
三津屋さんは人を介して、私の悪口を耳に入れることくらい簡単にできるんだと知った。
良子ちゃんママを狙って。
良子ちゃんママの信頼している近しい人を使って。
私の悪口を耳にいれたのだろう。
悪口を信じ込ませるにはいくつかパターンがあるけど。
この地域の場合は、数で押してるんだろうなと思った。
すごい数の人がこのママ友いじめに関わっている。
だけど、みんな三津屋さんの言い分しか聞いていない。
それなのに三津屋さんの言っていることが正しいと、皆思っている。
結局のところ、こういういじめに関係する人は。
自分がターゲットにならないことが優先で、何が本当かなんてどうでもいいのだ。
それで、多くの人が絡んでいるいじめに成立するのは。
「みんながそう言ってるから。」
だからこの話はきっと本当なんだ。
そう思わせる事ができる。
まだそれほど親しくなかった沢田さん。
その状態で私の悪口を聞かされて、さぞや驚いたことだろう。
きっとたくさん不安になったに違いない。
こうやって三津屋さんは、人の心に不安や恐怖を植え付ける。
そして三津屋さんを信じるように仕向け、不安恐怖を煽りながら支配下に置くのだ。
良子ちゃんが冷たくなった理由がここにもあったか、と思った。
母親が峰岸家とのお付き合いをためらい不信に思い始めたら、それは子どもにも伝わる。
きっと、そういうことだったんだと思う。
学童保育の真のボス
三津屋家では週末。
月に1回程度のペースで同学年女子が集まって遊んでいるようだった。
今日も外でキャーキャーと甲高い笑い声と話声がする。
メンバー的にはご近所仲間が多いけど、そのなかに学童の子が何人か混じっている。
朝から外があまりにも騒がしいので。
ちょっと様子をみていたら。
面白いことに気がついてしまった。
何をするにしても。
他の子はみんな、最後に桃亜ちゃんの許可をとる。
「○○でどうかと思うんだけど、いいかな?桃亜ちゃん?」
「○○して遊びたいんだけど、桃亜ちゃんどう思う?」
傍からみていると、桃亜ちゃんは大人しめの子だ。
だからまさか桃亜ちゃんが何かしているなんて、だれも思わない。
だけどこの子どもたちの構図を見ていると。
ピンとくるものがあった。
これって、みんな桃亜ちゃんに忖度してるんじゃない?
これって、桃亜ちゃんがボスってことなんじゃない?
桃亜ちゃんが子ども達のなかで、どういう立ち位置にいるかが垣間見えた瞬間だった。
確かに、桃亜ちゃんちの玄関先だったから桃亜ちゃんに許可をとった、ともいえるけど。
あのお伺いをたてる雰囲気は、そんな事務的なものじゃなかった。
もっとこう。
ご機嫌を伺うような要素があったよ。
ご近所と学童保育のママを掌握している三津屋さん。
その娘である「桃亜ちゃん」。
なるほど確かに。
損得計算が得意な人が打算的にものを考えたら。
桃亜ちゃんとは仲良くしておきなさい。
逆らったらだめよ!
と、そうなるんだろうなと思った。
証拠を残さないように立ち回りながら。
自分の思いを遂げるために人を使う。
陰でうごめき嬉々として暗躍している峰岸親子が、目に見えるような気がした。