かかりつけの小児科で紹介状を書いてもらって、すぐさま大病院へ連絡を入れた。
病院の予約を取って紹介状を持っていかなければならない。
すでに季節は年末間近。
寒さで空気が乾燥しているせいか、インフルだの風邪だのがあれこれ流行していた。
病院は何かと忙しい時期。
すんなり予約が取れる事を祈って電話をする。
ひらりは学校を休んでいるので、空いている時間ならどこでも行きますというスタンスで予約を申し込んだ。
すると2日後に丁度空きがあって、すぐに診察してもらえることになった。
これで少し前進できる。
お腹が治らない理由がわかれば、これからどう対応すればいいかがはっきりする。
2日後。
大病院へ向かう道中。
ひらりは車の中で、今日も点滴をしてもらうと張り切っている。
娘よ。
・・・頑張る所はそこじゃないぞ(笑)
検査と診断
大病院に到着し、受付を済ませたら。
診察室の前でしばらく待った。
名前を呼ばれて診察室に入ると、担当の先生は女性のかただった。
まずは身長と体重を計って。
血液検査もした。
学校から報告のあった身体測定時の体重よりも、2キロも体重が落ちていた。
もともと痩せすぎな子だったのに、そこから更に減ってしまって。
担当の先生にも、痩せすぎですねと言われてしまった。
しっかりご飯を食べられていた頃から「痩せすぎ」なんだもん。
2キロも減っちゃってたら、それは問題だよね。
考えられる可能性
ひらりが点滴を希望したことと、体重がだいぶ減っていることから。
検査結果がでるまでの間、点滴をして待つことになった。
小腹が減ったというので、病院の売店でオレンジジュースを買った。
紙パックのジュースくらいならお腹が痛くならずに飲める。
点滴が終わるころ検査の結果が出た。
やはりというか、そうなんだというか。
ここでも検査の結果は目立った異常なし。
う~ん。
目立った異常が無いということは。
ここでもやっぱり、原因がはっきりしないという展開なんだろうか。
先生はこう言った。
目立った異常がないので緊急のなにかと言うわけではなさそう。
ただ、体重が落ちすぎているので。
これ以上減るようなら入院も視野にいれる必要があります。
そう言われた。
なななんと、入院はいやだな。
そして、そのうえで考えられるのは。
今うどんしか食べられない原因は。
その可能性として考えられるのは。
胃腸のどこかがねじれているとか細くなっている可能性。
胃酸がうまく分泌できてないor分泌され過ぎで、調節できてない可能性。
そしてやっぱり、精神的なものの可能性。
でもって。
これ以上体重が落ちないように。
また普通の食事ができるようになるために。
今以上に体重が減らないよう「頑張って食べる」というミッションが課せられた。
ストレスが原因かもしれない
「ひらりさんって、もしかしてすごく頑張り屋さんなんじゃないですか?」
ストレスの疑いも視野に入れた診察で、そう聞かれた。
ひらりは、どうだろう?といった感じで小首をかしげる。
確かに。
一番心当たりがあるのがストレスだった。
先生からも、「思い当たる節はありませんか?」と聞かれて。
私は。
あります。
実は学校でいじめにあってます、と答えた。
先生は一瞬「それだ」という顔をした。
ただひらりは未だにピンと来てなくて。
いじめのストレス?
そうなのかなぁという顔をしていた。
先生はこう続けた。
頑張りすぎてしまう子は、ストレスが体に出ることがあります。
自分では意識していなくても、無意識の部分で強くストレスを感じているからです。
実は、こういう事はよくあります。
だから何が原因かはっきりさせるためにも。
学校が原因かどうかを確認するためにも。
「思い切って、しばらく学校を休んじゃいましょう!」
と、先生に提案された。
一足早い冬休み
病院の先生から学校をお休みしましょう、行こうと思うのをやめましょう。
そんなふうに言われるなんて思ってなかったから、ちょっとびっくりした。
だけどその提案がとても新鮮で気持ちが良いものに感じられたので。
即答でそうしますと答えてしまった。
もう当分学校に行かなくていいよ。
行こうと思わなくていいよ。
そう病院の先生に言われて。
ひらりはとても嬉しそうな顔をした。
みんなよりも早い冬休み。
ひらりは一足お先に冬休みに入ることになった。
ただし。
これ以上体重が落ちないように、食べたものを記録する事と。
便の様子を記録しておくこと。
あとお腹の傷み具合。
その3つをしっかり記録することになった。
ひらりは、お腹が痛いながらもちゃんと食欲がある。
ただ以前、食欲のままに食べてしまって吐いたから。
それで控えめに、様子をみながら食べていた。
だけど今日からは頑張って食べよう!
病院の先生も「食べたいと思ったものを食べてください」そう言った。
ミッションは「体重を戻す」だ!
一足早い冬休みという提案に、ひらりのテンションが上がったようだ。
学校に行かなくていいという響きで、心も軽くなったようだった。
点滴で回復した分以上に、心が開放的になったせいか。
ひらりは病院の売店でパンを買って欲しいと言ってきた。
「体重を増やさなきゃね。パンが食べたいから頑張って食べてみる!」
ひらりがそう明るい顔で言った。
休むと決めたら回復しはじめた
病院から戻って。
家に着いてすぐに学校へ電話を入れた。
病院での診察結果と、学校に行かないという病院側の提案。
それを担任の先生に報告した。
担任の先生の方からもすんなりOKが出て。
それでひらりの「一足早い冬休み」が確定した。
学校へ行かないという選択は、ひらりにとっても大正解だったようだ。
開放感があったのだろうか。
前よりも表情が明るくなった。
食べたいと思ったものを食べてみる作戦も、心を軽くするには効果があったようで。
なんとその日の夜はハンバーガーを食べたいと言い、ぺろりと食べた。
やっぱりちょっとお腹が痛くはなったけど、吐き気はでなかった。
気持ちが違うとこうも違うのかと。
気持ちが変わるとこんなにもすぐ変わるものなんだと。
ひらりの変化を驚きと嬉しさをもってみていた。
この調子なら体重も戻ってきそう。
そんな明るい兆しに溢れていた。
自分の心に向き合う
一足早い冬休みを受けて。
学校では「ひらりさんは体調不良で学校に来られません。」と説明したようだ。
それで。
お休みを決めてしばらくした頃。
先生からのプリントのなかに、クラスのみんなからのお手紙集が入っていた。
1人1人がB6くらいの画用紙にメッセージを書いて、それを綴じたもの。
私もひらりも。
ここにメッセージを書いた女子達はいじめをやっているのに。
一体何を書いてきたんだろうと、そう思った。
ちょっとどきどきしながらメッセージをみていく。
どの女子も。
「はやく元気になってね!」
「ひらりちゃんが来るの待ってるよ。」
などなど、それっぽいことを書いている。
可愛らしいカラーのイラスト付きで。
ひらりは爆笑した。
ゲラゲラ笑っていた。
よくこうも上辺を取り繕って書けるよね。
全然そんな事思ってないのに。
無視して、口もきかず、睨みつけ。
存在を抹消してくるし、足を引っ張ろうとするくせに。
先生の前ではこういう態度。
先生の前では良い子を演じて。
ひらりはそのメッセージの束を最後までみて、こう言った。
「ずっと気持ちが悪かったんだよね。」
先生の前とひらりの前では顔が全然違う。
そうやって使い分けるあざとさや、人を傷つけることに一生懸命な汚らしい心。
それが全部顔にでてて。
気持ち悪かった。
見たくもないものを見せられ続けて。
グロテスクな心を見せられ続けて。
それが気持ち悪かったんだ。
そこでようやく。
ひらりは自分の気持ちに気がついたんだと思う。
いじめのストレスと、一言でいってしまえばそうだけど。
もっと突っ込んで言えば、気持ち悪くて見たくなかったんだって、そうはっきり認識できたことが大きかった。
その日を境に。
回復傾向にあったひらりのお腹は、もっと加速して回復しはじめた。
自発的に学校を休んでいる。
自発的に学校へ行かない。
私とひらりはあんまり感じてなかったけど。
世の中的に私達は。
いつのまにか不登校の子どもと、その親になっていた。