体も元気。
心も元気。
転校が決まって、早目の春休みに入って。
ひらりは毎日エンジン全開で楽しく過ごしていた。
学校が始まったらもうなかなかランチには行けないからと、あちこちリクエストされて出かけたし。
公開したばかりの映画なんかも、空いてる時間にじっくり楽しむことができた。
確かに。
新しい学校に行くのは。
ちょっぴりの不安もある。
楽しいばかりではない、かもしれない。
今度は友達とうまくいくだろうか?
もし隣の学校にまで、三津屋さんが悪口を言いふらしたら?
なんで転校してきたのってなって、いじめられてたんだってーってなったら?
思ってたような学校じゃなかったら?
そりゃ、考えたら色々でてくる。
だけど今大事なことは。
自分が望んだこと、自分が選んだこと、自分が感じたこと。
それを全部信じて。
ただ「楽しみだ」「嬉しい」「幸せ」と思って、その気持ちを素直に味わうことしかしなかった。
だって。
新しい学校に行ったらどうなるかなんて、行ってみないとわからない。
それに。
先を心配するよりも、今。
今この時を楽しむこと。
そこを頑張りたいって、そう思っていた。
新しい学校新しいクラス
5年生になってひらりが通うことになる、隣の小学校も。
5学年でクラス替えがあった。
クラス替えに紛れて、すんなり紛れ込めるといいな。
他にも転校生がいるらしいし。
5年生になっていきなり通学する形になるので。
ひらりが何組になるのかだけは教えてもらったけど、クラスメイトなどの情報はなかった。
だけどきっと。
新しいクラスには、久々に会う幼稚園時代の知り合いがいるだろう。
今度こそ、小学校に安心して通えるといいな。
あれ?
安心して・・・?
ってそう思った時に、笑ってしまった。
今まで私達は一体どんな学校生活を送ってきちゃったんだろう(笑)
殺伐として一時も気が休まらない毎日。
学校に行くのに緊張して勇気がいるような日々。
今はこうやって、その過去を笑える。
そう。
あのいじめの日々は、私達親子にとって過去になったのだ。
嬉しい再会
ひらりは。
ちょっと緊張しながらも、明るく綺麗な顔で学校へ行った。
隣の学区とはいえ、歩いていくには遠すぎるので。
私は行きも帰りも送迎することになった。
車で送り迎えなんて、ひらりってばお嬢様!
だけどそんなのもアリかなって思う。
また楽しく学校に行けるようになるのなら、アリだよ。
初登校の下校時。
私は下校時間に合わせて車でお迎えに行っていた。
私の車を見つけて近寄ってくるひらりの隣に。
なんとなく見たことある子が一緒にいた。
幼稚園のころ、一番仲が良かった「英子ちゃん」だ。
どうやらひらりは、偶然にも英子ちゃんと同じクラスになったらしい。
ひらりが。
羽のようにひらひらと。
歩いているのに舞っているみたいな様子で、こちらへやってきた。
それくらい。
嬉しいと思っているのが一目でわかった。
その瞬間。
やっぱり転校して良かった、って。
心からそう思えた。
誰とでも仲良くできる
前の小学校を出る前に。
私は先生に一つだけ確認しておいたことがあった。
それは。
「もし、どうして転校してきたの?」と聞かれたら、どう答えればいいですか?
というもの。
だって、絶対に聞かれるでしょう?
先生の答えはこうだった。
「ちょっと色々事情があって。」
これでいきましょう、と。
子ども達は、そこまで深く聞きたがらないし。
きっとそんなに気にしないと思いますよ、とのことだった。
先生がそう言うなら、そんなものなのかなって思ったら。
実際そうだった。
ひらりはやっぱり学校で、なんで転校してきたの?と聞かれていた。
その都度「事情があってー」って答えでなんとかなったらしいので。
わぁ。
すごい、先生の言ったとおりですよ(笑)
なので、転校生で訳アリでなんか変な感じになるって展開は一切なかった。
それよりは。
ひらりに良い意味で関心を持ってくれる子が多くて、ちょっと嬉しかった。
流動的な仲間意識
女子も5年生になると、女子女子してくると言うか。
グループになったり、閉鎖的になったり、微妙な雰囲気を醸す年頃だけど。
この学校の女子達は、あまりそういう様子ではなかった。
確かにグループはある。
仲の良い子で固まる傾向はある。
でも、それだけで終わらない。
時と場合に応じて、その組み合わせが流動的になる。
ひらりから話を聞いていて、一番印象的だったのは昼休みのエピソードかな。
その日は天気が良くて。
担任の先生も含め、みんなでグラウンドに遊びに行こうとしてたけど。
ひらりは日焼けをしたくなくて教室に残ると言った。
そうすると、同じように日焼けしたくない女子が数人残って、その女子達と楽しく昼休みを過ごしたそうだ。
いま一番仲良くしている英子ちゃんは、元気にグラウンドへ行き。
ひらりは教室で、同じ目的の女子たちと臨機応変に仲良くできる。
特に、誰と誰がいつも一緒にいるととか。
グループの意思に反しちゃいけないとか、そういうのが無い。
純粋に自分たちの意思で、行動を決定しているんだなってのがわかって。
この学校の女子達はとてもしっかりしているんだなって思った。
第三者の圧力がなく、それぞれが自分の意志で自由に行動を決定できる。
そもそもそれが普通なのかもしれないけど。
今までがそうじゃなかったから。
これが。
これが今まで私達が思い描いていた小学校生活なんだなって、改めて思えた。
小学生らしい毎日
転校する前に不安になったことといえば。
もしかしたら。
自分たちが自己中心的なものの見かたをしていて、気がついていない所がたくさんあって。
それで、もしかしていじめの原因が私達の未熟さにあるなら。
もしそうなら、新しい学校でも嫌われてしまうのではないかと心配になった。
同じことが起こるのではと、心配になった。
自分の考えていることが、いつも全て正しいわけじゃないから。
その可能性もあるかもと思った。
でも、やっぱり。
そうじゃないよね、って思いなおす。
だって、仮に100歩譲って。
いくら私達が未熟で落ち度があったとしても。
いきなり「いじめ」になること、そのものがおかしいのだから。
いじめにあう側は、つい「自分が悪いのかな」って考えがちだけど。
もうそういうのは辞めたい。
誰が悪いとか、どっちが悪いとか、そういうのはもうどうでもいい。
結局。
人生に訪れたこの望みもしない苦しい経験は。
学びだったんだ。
人生をよりよくするための学びだったのだから。
友人に囲まれ楽しく過ごす日々
あれだけ入れていた習い事も。
そもそもは細貝さんを避ける目的だったので。
色々整理してひらりが行きたい習い事だけにして減らした。
おかげで少し、放課後ゆっくりできるようになった。
ひらりは。
習い事が無い放課後は、ほぼ毎回お友達と遊ぶ約束をしてくる。
我が家に来ることもあれば、お友達の家に行くこともあるし、公園で集合なんて日もあった。
ひらりの顔に、子どもらしい笑顔が戻ってきた。
目をきらきらと輝かせて、はつらつとした日々を送れるようになった。
学校生活も順調。
友人関係も順調。
1人も友達がいなかったひらりが。
今は友達に囲まれている。
そして、それは私も同様で。
学校に授業参観に行っても、無視されたりひそひそ噂話をされたりしていない。
ごく普通に、穏やかに。
どのママさんも対応してくれる。
当たり前で当然が、私達親子には当然ではなかったから。
心に感謝が溢れて、毎日が暖かくて輝いたものに感じられた。
人の優しさや、人と共に生きることが。
こんなにありがたい事だったんだなって、胸に響いて。
幸せだね、って。
幸せだねって、そう思った。